『許してくれるの?』自分の間違いに気付いたきっかけ
医師から言葉に初めは戸惑ったという優美さん―――
しかし、その日の帰宅後、晴奈さんと話して自分の間違いにようやく気付いたそう。
「妹に、何気ない感じで『働いてみたい?』と聞きました。そしたら、目を輝かせて『いいの? 許してくれるの?』と言ってきたんです。その時、頭を殴られたような衝撃が走りました。妹の意思とか、人生を奪っていたのは私だったんだと。妹が成長しても、私が危ないと思うことは一切させてあげなかった。プロポーズされた時も妹を理由にして断った。働きたがる妹にまだ早いとストップをかけていた。…全部、妹のためだと思っていました。でも違ったんですよね。あの自転車事故の日からずっと、妹の手がまた離れるのが怖いのは私だったんです」
うつむいて自分の手を見つめながら話す優美さん―――
視線を下に落としたまま話し続けます。
「妹が、自分のことはもうある程度彼女自身で出来ることも、普通のコミュニケーションなら取れることも、本当は分かっていたんです。ただ私が怖くて、妹の大事な成長とか時間、社会に出る機会を奪ってしまっていた。ダウン症の子にはそういった経験は特に必要なこと。そんな大切なものを与えるどころか自分のエゴで奪ってしまったことを心から後悔しています」
姉妹の幸せを願った医師の言葉
その後、妹さんとともに就職支援センターに通い、無事に就職。晴奈さんは今もずっと同じ職場で元気に働いているといいます。
「少し遅れてしまったけど、妹の自立を手伝うことが出来て本当に良かったです。お医者さんがあの時言葉をかけてくれなかったら、私はいまだに妹を縛り付けていたのかと思うとゾッとします。妹だけでなく、私たち二人の幸せを考えてくれた言葉だったと思います」
「一度、働いている妹の姿を見たくて、職場に覗きに行ったことがあるんですが、見たことないくらいニコニコして生き生きと楽しそうに働いていました。それを見て、私の方がやっと妹離れできた感じです」
現在、優美さんは会社の同僚と結婚し、母親や妹さんの住む家から少し離れたところで暮らしているといいます。
「妹のそばにいると、どうしても心配になってお節介を焼いてしまうので、少し離れてたまに会うくらいがちょうどいいんです。会う度にたくましくなる妹に驚かされてばかり。私も頑張らなきゃと元気をもらっています」
そう話す優美さんの力強さと優しさに妹さんへの深い愛を感じました。