「妹を置いて行けない」彼のプロポーズを断った理由
「大学卒業のとき、県外に就職する彼にプロポーズされたんです。『ずっと一緒にいたい。絶対幸せにするからついてきてほしい』と言ってくれました。すごくすごく嬉しかったですよ。こんな幸せなことがあっていいのかと思うくらい。……でも断ってしまったんですよね」
「妹を置いて上京することはできないと思ったんです。妹には自分が必要だ、そう思い込んで、彼からのプロポーズを断りました。彼はまさか断られると思っていなかったみたいで、戸惑っていましたし、妹を連れていって一緒に住んでもいいとさえ言ってくれました。でもそれはさすがに現実的ではなかったですし、彼もそう思ったのか、結局一人で上京していきました」
当時のことを思い出したのか、目が潤む優美さん。
涙をこらえながら話を続けます。
「本当に苦しかったです。彼のことが大好きでしたし、彼なら妹のことも大事にしてくれる。彼が県内で就職してくれさえすれば、と傲慢な思いを何度頭に浮かべたか……」
優美さんは、それから心を押し殺してがむしゃらに働き、妹さんの世話をする生活を続けたと言います。
「妹さんにも自分の人生を生きる権利がある」
そんな優美さんの人生を大きく変えたのは、彼女が社会人になって2年目の春、とある出来事がきっかけでした。
「妹のことを幼少期から診てくださっているお医者さんがいるんですけど、その方に言われたんです。『そろそろ妹さんの自立支援を本格的に考えませんか?』と。いわゆる就職活動ですね。実はそれまでも何回かその話はされていたんですけど、スローペースでおっとりした妹にはまだ早いんじゃないかと私が勝手に断っていたんです」
その時も少し渋っていたという優美さん。
しかし、その日の医師は引き下がらなかったと言います。
「いつもすごく優しくて、私や妹の意見を尊重してくれるお医者さんなのですが、その日はいつもよりはっきりした口調で私におっしゃったんです。『あなたはあなたの人生を生きなさい。晴奈さんもそれを望んでいるよ。晴奈さんにも自分の人生を生きる権利があるんだよ』と。驚きました。自分で言うのもなんですが、懸命に妹のために生きてきたつもりでした。だから責められるような言い方をされたことが意外で」