●米中景気の先行き懸念と、世界的なエネルギー価格の上昇で、スタグフレーションを警戒する声も。
●米国は過去、石油危機でスタグフレーションを経験、悲惨指数は20%前後に達し深刻な状況に。
●悲惨指数は現在10%程度、過去この水準でスタグフレーションに至っておらず発生リスクは小さい。
米中景気の先行き懸念と、世界的なエネルギー価格の上昇で、スタグフレーションを警戒する声も
市場ではこのところ、景気停滞とインフレが併存する「スタグフレーション」を警戒する声が聞かれます。景気停滞が懸念される背景には、①米国では金融政策が緩和縮小に向かう一方、供給制約の影響を大きく受けている業種もあり、景気の下振れリスクがある、②中国では温暖化対策で火力発電が抑制されており、電力不足で成長ペースが鈍化する、との見方があります。
一方、インフレに対する懸念は、世界的なエネルギー価格の上昇が背景にあります。特に原油価格の上昇は顕著で、WTI原油先物価格は10月11日、一時1バレル=82ドル18セントまで上昇し、約7年ぶりの高値をつけました。確かに、このような状況では、スタグフレーションへの警戒は高まりやすいと思われます。そこで、今回のレポートでは、スタグフレーション発生の可能性について、過去の事例を踏まえて考えてみます。
米国は過去、石油危機でスタグフレーションを経験、悲惨指数は20%前後に達し深刻な状況に
では、具体的に米国の事例を振り返ります。米国では、1973年の第4次中東戦争に起因する第1次石油危機と、1979年のイラン革命に起因する第2次石油危機を受け、スタグフレーションが発生しました。スタグフレーションの度合いを示す一つの指標として、便宜的に米消費者物価指数の前年比伸び率と米失業率の和を用います。なお、この指標は米国の経済学者アーサー・オークン氏が考案した「悲惨指数(Misery Index)」です。
米国経済がスタグフレーションに陥った1973年から1980年代はじめにかけて、悲惨指数は20%前後に達する場面もみられ、スタグフレーションの度合いは極めて深刻だったことが分かります(図表1)。
なお、この時期の米消費者物価指数と米失業率の水準をみると、前者は前年比でおおむね2ケタの伸び率となっており、後者はおおむね5%から10%で推移していました。
悲惨指数は現在10%程度、過去この水準でスタグフレーションに至っておらず発生リスクは小さい
直近9月の米消費者物価指数の前年比伸び率は5.3%、同じく9月の米失業率は4.8%となっています。そのため、現在の悲惨指数は10.1%と、10%を超えてきています。しかしながら、米国では、2度の石油危機でスタグフレーションが発生した後、悲惨指数が10%を超える場面は何度もみられました。ただ、結局、スタグフレーションに至ることはありませんでした。
この先、原油高が一段と進行した場合、米シェールオイルの生産が増え(図表2)、石油輸出国機構(OPEC)の協調減産見直しを促し、結果的に需給が緩和するという展開も想定されます。
また、米国における人手不足などの供給制約は時間の経過と共に解消に向かい、中国当局も景気腰折れまでは容認しないと思われます。以上より、スタグフレーションが発生するリスクは現時点で小さいと考えられます。
※当レポートの閲覧に当たっては【ご注意】をご参照ください(見当たらない場合は関連記事『スタグフレーションは起こり得るか』を参照)。
(2021年10月12日)
市川 雅浩
三井住友DSアセットマネジメント株式会社
チーフマーケットストラテジスト