冒頭のケース「営業自体の制限」は難しいが…
従前からの管理規約と具体的事情から考える
本ケースにおいては、従前、運用の実態としても規約においても、店舗営業時間には何ら制限がありませんでした。このような場合において、総会の決議のみによって、店舗営業に制限を創設するのは困難であると考えられるため、管理規約において営業制限にかかる条項を新設する方法により営業制限をすることになります。
この点、規約の新設が区分所有法31条1項後段の「一部の区分所有者の権利に特別の影響を及ぼすとき」に該当するかが問題になります。
上記考慮要素に従って判断すると、本ケースにおいては、マンションの構造に関して、店舗部分は1階のみであり、居住部分が大半を占めており複合型とはいえほぼ居住用のマンションといえます。
そうであれば、騒音や悪臭が生じるような営業を続ければ、大部分を占める居住部分の区分所有者の生活に支障が出ることは明らかです。したがって、問題となっている騒音や悪臭を防ぐための規定であれば、合理性や必要性は高いといえます。
営業時間の制限について
営業時間の制限に関しては、居住部分に影響が及びやすい深夜帯の営業を制限するなど、騒音や悪臭といった問題を防止する上で合理性・必要性が高いといえます。また、周辺環境について、夜間には人通りもまばらな地域であれば、深夜帯の営業を禁止しても店舗に売上の損失等の影響は少なく、不利益は小さいといえます。
店舗部分の種類の制限について
店舗部分の種類の制限に関しては、営業の種類の制限内容によっては、無制限で営業が許可されていた店舗について営業自体を行えなくなり立ち退かざるを得なくなる可能性もあり、当該店舗の被る不利益は甚大です。
また、悪臭や騒音等の問題に関しては、営業の種類自体を制限するのではなく、上記営業時間の制限や防音・消臭設備の設置等の代替措置によって防止することが可能であり、業種自体を制限する必要性は乏しいといえます。したがって、現在営業している営業の種類自体を制限するのは難しく、現行店舗に限り、当該営業を認める等の経過措置を設ける必要があるでしょう。
香川 希理
香川総合法律事務所 代表弁護士