(※写真はイメージです/PIXTA)

精神科ユーザー、高校中退、29歳まではバレエ教師という医師としては異色の経歴をもつ、医療法人瑞枝会クリニック院長・小椋哲氏。研修医時代から、精神医療現場の「短時間の画一的な診療」に疑問を抱き、積極的に患者の抱える問題に介入する「対人援助」を意識していました。しかし診療の質を確保しながら数をこなすことを求められる日々に、疲れ切ってもいたといいます。

小さな「カウンセリングオフィス開設」実験をスタート

もともと、将来的には開業して自分のクリニックをもちたいと考えてはいましたが、なんの工夫もしないまま、既存の診療モデルで開業することは自殺行為だとも自覚していました。

 

だから、その前にある実験にチャレンジすることを思い立ったのです。小さな事務所を借りて、健康保険を使わない自費診療で、希望する患者を診るという取り組みです。

 

私が担当している患者のなかでも特に、「もっと長い診察時間を確保できれば、効果が高い援助ができる」と考えられる人に声を掛け、健康保険が効かないカウンセリング料を支払っても診察を受けたいと希望した人を対象にカウンセリングオフィスをオープンしたのです。

 

診療時間は、勤務先の病院で土曜午前の診察が終わったあとの、土曜の午後だけです。カウンセリングにかける時間は1回50分としました。

 

あくまでトライアルの段階であり、十分な診療ができないストレスをなんとかしたいという思いのほうが強かったので、家賃などの固定費をカバーできれば良しとして金額を設定しました。医師によるカウンセリングとしては破格の料金だったこともあり、1日5人の枠はあっという間に埋まりました。

 

カウンセリングオフィスの利用を提案するのは、治療上、時間をかけたカウンセリングが必要で、かつその効果が高いと期待される患者です。具体的には、現在のことであっても過去のことであっても、自分自身に起きたことを言葉にまとめていく作業に、一定の時間を要するケースです。

 

すなわち、患者の自己像(当院の診療モデルでは「アバター(分身)」と呼ぶ。以後、アバター)をともに作りこんでいく作業に時間を要するケースであるともいえます。

 

この作業を過去の自分に行う場合、トラウマのケアとなる場合が多いです。恐怖や怒り、情けなさなど、ネガティブで強烈な感情を引き起こした体験について、カウンセラーがその苦痛を一部引き受けつつサポートするなかで、言葉に紡いでいくわけです。過去の出来事に対して心に抱えている複雑な感情の塊が、現在の自分が抱える問題に影響しているということに、患者自身がまったく気づいていないことも多くあります。

 

患者の内面で何が起きているのかということを患者自身が理解できるように示すことは、治療として非常に高い効果があります。しかし、患者のアバターをともに生成し、患者に分かるように説明するにはある程度まとまった時間が必要なのです。

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※本連載は、小椋哲氏の著書『医師を疲弊させない!精神医療革命』(幻冬舎MC)より一部を抜粋・再編集したものです。

医師を疲弊させない!精神医療革命

医師を疲弊させない!精神医療革命

小椋 哲

幻冬舎メディアコンサルティング

現在の精神医療は効率重視で、回転率を上げるために、5分程度の診療を行っている医師が多くいます。 一方で、高い志をもって最適な診療を実現しようとする医師は、診療報酬が追加できない“サービス診療"を行っています。 こ…

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