(※写真はイメージです/PIXTA)

精神科ユーザー、高校中退、29歳まではバレエ教師という医師としては異色の経歴をもつ、医療法人瑞枝会クリニック院長・小椋哲氏。研修医時代から、精神医療現場で多くの問題に直面し、現在のクリニック設立に至ったといいます。

「29歳で医学部に入るまでバレエ教師」の過去から…

精神科の後期研修で東大の精神科医局に入局し、3年間学んだあと、京都の病院に勤務することになりました。京都を選んだのは、東大時代にダンスムーブメント療法(ダンスセラピー)という心理療法に出会い、強い関心を寄せるようになったことがきっかけです。

 

ダンスムーブメント療法は身体の動きを通して精神疾患の患者を治療するセラピーで、米国では普及していますが日本ではまだ提供できる人の少ない精神療法です。

 

実は私自身、少年時代に精神科ユーザーだった経験があります。学校になじむことができずに高校を中退し、29歳で医学部に入るまではバレエ教師をしていたという経歴をもっています。

 

こうしたバックグラウンドもあって、ダンスで自身を解放しながら内面と向き合えるこのセラピーに大きな可能性を感じ、自分の患者にこのセラピーを必要とする人がいれば、提供できるようになりたいと思うようになりました。

 

ダンスムーブメント療法を行う臨床心理士の一人が京都を拠点にしていたことから、定期的に教えを請うために、自分自身も京都に拠点を移したいと考えたのです。診察室ではなく、スタジオで行うセッションでしたが、患者と身体感覚のレベルで向き合い、患者の反応にリアルタイムに応じるなど、現在の診療に活きる対人援助の一端をこの経験を通じて学ぶことができました。

 

移り住んだ京都では、精神科の専門病院で勤務することになりました。病棟もある大きな病院で、入院患者も外来も両方担当していました。病棟で入院している患者を担当し、その人が退院すると外来で担当するという形になるので、どうしても症状が重い人を中心に担当することになります。

 

毎日たくさんの患者が訪れるなかで、ほかの先生方は5分程度の診察でどんどんさばいていくわけですが、私は当時から、患者が抱える問題を発見し適切に介入していく対人援助を意識していたので、どうしても診察は長くなってしまいます。なるべく短時間で、と意識はしていても、それでも20分近くになるケースが多くなりました。

 

当然ながら、私が外来に入る日は待合室が混雑し、多くの患者を待たせることが常態化していました。私自身もプレッシャーを感じていましたし、スタッフからも「早く診察を終わらせてほしい」という雰囲気を感じ取っていました。

 

ただ、必ずしも私のようなタイプの医師がすべてにおいて嫌がられていたわけではありません。短時間の診察に不満をもっている患者や、じっくり話を聞いてほしいと考える患者の間からは評判がすこぶる良くなるわけです。しばらくすると、病状が複雑な患者や扱いの難しい患者は、優先して私の診察に回されるようになりました。

次ページ待合室が、ますます混み合っていったワケ

※本連載は、小椋哲氏の著書『医師を疲弊させない!精神医療革命』(幻冬舎MC)より一部を抜粋・再編集したものです。

医師を疲弊させない!精神医療革命

医師を疲弊させない!精神医療革命

小椋 哲

幻冬舎メディアコンサルティング

現在の精神医療は効率重視で、回転率を上げるために、5分程度の診療を行っている医師が多くいます。 一方で、高い志をもって最適な診療を実現しようとする医師は、診療報酬が追加できない“サービス診療"を行っています。 こ…

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