「先生にお任せします」…逝き方を委ねる患者。医師の本音は【在宅医が見た医療の現場】

「先生にお任せします」…逝き方を委ねる患者。医師の本音は【在宅医が見た医療の現場】
(※画像はイメージです/PIXTA)

最期の時間をどこでどう過ごすかについて、本人や家族それぞれの思いがあるはずです。実際の選択は、家族のサポート、経済的、医療的サポートがどこまで可能かという部分がありますが、納得のいく最期を選ぶ方法とは…。※本連載は中村明澄著『「在宅死」という選択』(大和書房)より一部を抜粋し、再編集した原稿です。

本人や家族が、病気の段階を理解する

■現状理解があってこそ、最良の選択ができる

 

目の前に迫る死を受けとめるのは、どんな人にとっても簡単ではありません。病気の進行や、残された時間という事実に向き合うのは、誰だって怖いものです。それでも、ご本人やご家族がその病気や老衰について、治療したら治るものなのか、もう治らない段階なのか、今がどういう段階なのか、ということを正しく理解しておくことが、納得できる最期の時間を過ごすための、いちばん大切な条件になります。

 

「そんなの酷だよ」と思う方もいらっしゃるかもしれません。でも目を背けずに向き合うことは、最終的には「ぼちぼち、よかった」と思える結果につながります。

 

逆に正しい状況を知らずにいると、本意でない選択をしてしまったり、すぐ実行にうつせばできたはずのチャンスを逃してしまったり、後悔することになる場合が少なくないのです。

 

また、残されている時間がどのくらいなのかを知っておくことも大切です。とくに、がん終末期の場合は、一見、元気に見えても残された時間がとても少ないことがあるため、大切な時間をどう使うか考えていく上で大切な情報になります。

 

これは療養場所の選択、つまりどこでこれから過ごしていきたいのか、といったことにも大きく関係してきます。たとえば、ご家族が自宅で介護することが難しいと思っていても、あと数か月かもしれないとなると「仕事を休んで自宅で一緒に過ごしたい」という決断になることもあるでしょう。

 

現実を知るのはつらくもありますが、今の病気の段階を正しく把握することで、最期の大切な時間をどこでどう過ごしていくのか、最良の選択につながります。

 

■勇気を出して聞いてみる

 

医師も、病気を治すことに必死です。治療できない壁にぶつかってもなお、他に何かできることがないか一生懸命考え続けます。そのために、治らないことをお伝えするのが、ぎりぎりの時期になってしまうことが少なくありません。

 

そのためもあってか「もう少しよくなったら〇×しよう」とやりたいことを先延ばしにする患者さんをたくさん見てきました。思い通りに動ける時期はおそらくもう今しかないというときに、そのチャンスを逃すことになってしまうのです。

 

新たな病院探しや治療法探しに必死になっている間に死期が迫って、やりたかったことが何もできないまま最期を迎えてしまう方もいます。そうなって後悔しても時間は戻ってくれません。

 

20年前と比較すると、医療者が病名や病状、余命について、ご本人やご家族にお話しする方向になっていることは間違いありません。ですが、全員にすべてのことを話すことがいいとも限らないのが事実です。ですから、ご本人への心理的負担を考慮してお伝えしない選択がなされる場合もあります。

 

しかし本来、ご本人には「知る」権利があります。何も聞かずに逝ってしまうほうが幸せと思う方は無理に知る必要はないと思いますが、病状や余命をきちんと分かっていることで、比較的パワーのあるうちに、やりたいことをして、行きたいところに行く、自宅に戻りたければ退院して戻る、という選択をすることが可能になるのも確かです。

 

ですから、病状を知りたい、今の段階を聞きたいと思ったら、ぜひ勇気を出して医療者に聞いてみてください。「これからどうなるのか」「残された時間はどれくらいあるのか」「今、家に帰ることもできるのか」。そうすることで、より納得のいく最期の過ごし方につながると思います。

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「在宅死」という選択~納得できる最期のために

「在宅死」という選択~納得できる最期のために

中村 明澄

大和書房

コロナ禍を経て、人と人とのつながり方や死生観について、あらためて考えを巡らせている方も多いでしょう。 実際、病院では面会がほとんどできないため、自宅療養を希望する人が増えているという。 本書は、在宅医が終末期の…

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