「入院したい」にショックを受けたが…患者が隠していた本音【在宅医が見た医療の現場】

「入院したい」にショックを受けたが…患者が隠していた本音【在宅医が見た医療の現場】
(※画像はイメージです/PIXTA)

最期の時間をどこでどう過ごすかについて、本人や家族それぞれの思いがあるはずです。実際の選択は、家族のサポート、経済的、医療的サポートがどこまで可能かという部分がありますが、納得のいく最期を選ぶ方法とは…。※本連載は中村明澄著『「在宅死」という選択』(大和書房)より一部を抜粋し、再編集した原稿です。

自分の思いは言葉にして伝える

■自分がどうしたいかを伝える

 

最期の過ごした方を決める上で大切なのは、人生観や価値観から生まれてくる思いです。その思いを「言葉にして伝える」ことが次に大切なことです。思いを言葉にすることで、自分自身の中でもその思いを整理することができますし、言葉にしているうちに、自分自身でも気づいていなかった大切なものの真髄に気づくこともあります。

 

「家に帰りたい」「○×がしたい」と心に思っているなら、その思いを必ず誰かに発信してください。「家族なら言わなくてもわかってくれているはず」という考えは、往々にして間違うことがあります。

 

親のことを考えていても、子供たちで意見が分かれることはよくあります。価値観は一人ひとり違うものですから、良し悪しがあるわけでなく、また、それぞれの思いが違うことも悪いことではありません。でも、大切なことを言葉にせず、わかってもらえているはず、という前提でいるのはとても危険なことです。

 

■遠慮と気づかいはほどほどに

 

在宅医療に携わっていると、日々ご家族のさまざまな思いに遭遇します。そして多くの方が本当に言いたいことは胸にしまったまま我慢する傾向があると感じます。ご本人とご家族とが互いに気をつかうあまりに、本音を伝えられないのです。

 

たとえば、ご本人から「入院したい」という話が出たとき。

 

ご家族としては、最期まで介護するつもりでいたのに、入院したいと言われて大ショック。「やっぱり家じゃ不安なんだ……自分達じゃだめなんだ……」とがっくりきたものの、この時期にそんなことを言って本人につらい思いをさせるのもかわいそう。そこで、ぐっとこらえて入院の選択に同意。

 

でも、実はご本人の本音は「本当は入院なんかしたくない。ずっとこのまま家にいたいけど、動けなくなった自分がこのまま家にいたら家族に迷惑になる。家族に迷惑をかけないために入院したほうがいい」というものだったのです。

 

ご本人は、最後の結論だけ伝えてしまったのです。お互いがお互いを思いやるあまり、言葉が足りず、汲み取り切れずにぎくしゃくしてしまうのです。

 

でも、ふたを開けて両方の話を聞いてみたら「なぁんだ、全員が家で過ごすことを希望しているんじゃないか」と判明する。うそみたいな話ですが、これがけっこうよくあるのです。

 

遠慮と気づかいは美徳ではあるものの、最期を迎えるシーンでは、思いきって自分の思いを率直に言葉にする勇気を持ってください。自分の気持ちを伝えられないばかりにすれ違うのは、もったいないとしか言いようがないのです。

 

■ときに迅速な対応が必要なことも

 

終末期の患者さんたちには残された時間が短いため、どこでどう過ごすかという決断を、迅速に行う必要があります。その方にとって明日はもうないかもしれないのが現実だからです。

 

そのため入院中の患者さんが「家に帰る」と心を決めたのであれば、退院に向けてつぎのアクションを超特急で進める必要があります。逆のこともあります。自宅にいて、訪問診療を終えて「じゃあ、失礼します」とお宅を出たあとに、患者さんの娘さんが慌てて追いかけてきて「先生、母がもう父の弱っていく姿をみるのが限界みたいです」となれば、すぐに入院の手続きをとることもあります。

 

何か思うことがあっとき、躊躇せず迷ったままで構いませんので、ぜひ私たちに伝えてください。気持ちは揺れるものですから、途中で変わっても大丈夫です。でも、その揺れる思いをすべて、私たち医療者にも教えてください。口に出して言ってもらえれば、誰かが動いて、きっと希望を叶えることができます。

 

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「在宅死」という選択~納得できる最期のために

「在宅死」という選択~納得できる最期のために

中村 明澄

大和書房

コロナ禍を経て、人と人とのつながり方や死生観について、あらためて考えを巡らせている方も多いでしょう。 実際、病院では面会がほとんどできないため、自宅療養を希望する人が増えているという。 本書は、在宅医が終末期の…

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