(※写真はイメージです/PIXTA)

私たちの消費活動によって、どのような組織や事業が次世代に譲り渡されていくのでしょうか。 ※本連載は山口周著『ビジネスの未来』(プレジデント社)の一部を抜粋し、編集したものです。

「大きく、遠く、効率的」と「小さく、近く、美しく」

■「責任ある消費」で市場原理をハックする

 

私たちは日常生活の中で、特に意識することもなく、モノやサービスを購入するわけですが、この購入は一種の選挙として機能し、購入する人が意識することなく、どのようなモノやコトが、次の世代に譲り渡されていくかを決定することになります。

 

私たちが、単に「安いから」とか「便利だから」ということでお金を払い続ければ、やがて社会は「安い」「便利」というだけでしかないものによって埋め尽くされてしまうでしょう。もしあなたがそのような社会を望まないのだとすれば、まずは自分の経済活動から考え直さなければなりません。

 

だからこそ、「責任ある消費」という考えが重要になってくるのです。

 

なぜ「責任」なのかというと、私たちの消費活動によって、どのような組織や事業が次世代へと譲り渡されていくか、が決まってしまうからです。

 

私たちが、自分たちの消費活動になんらの社会的責任を意識せず、費用対効果の最大化ばかりを考えれば、社会の多様性は失われ、もっとも効率的に「役に立つモノ」を提供する事業者が社会に残るでしょう。

 

そのような大企業が社会を牛耳ることに批判的な人も多いのですが、彼らは別に権力者と結託してあのような支配的地位を獲得したわけではありません。彼らがあのような大きな権力を持つに至ったのは、なんのことはない、私たちがその事業者から多くのモノやコトを購入しているからです。

 

これはつまり、何を言っているかというと、これをひっくり返せば、市場原理をハックすれば、私たちが残したいモノやコトをしっかりと次世代に譲渡していくことが可能だということです。

 

■「小さく、近く、美しく」へ

 

ここでカギとなるのがより「小さく、近く、美しく」というベクトルです。近代社会において発展した経済は、基本的に「普遍的な物質的問題」を解消することで発展しましたから、その過程で多くの大企業を生み出すことになりました。普遍的な問題というのは顧客が全地球上にあまねく存在するということですから、スケールメリットを活かしてできるだけ長いバリューチェーンを築き、同じモノを大量に生産することが競争にとても有利だったからです。

 

その結果、今日の私たちの社会には「大きく、遠く、効率的」にという強迫的価値観が拭い難くはびこることになりました。この強迫は当然のことながら微成長が常態となる「高原社会」では精神を病む原因となりますし、何よりも「活動から得られるコンサマトリーな喜び」を排除する原因となります。

 

ここでカギとなるのが、より「小さく、近く、美しく」という逆方向のベクトルの回復です。「顔の見える関係による喜びの交換」がバリューチェーンからバリューサイクルへの転換の目的だとすれば、私たちの経済もまた、ここ200年のあいだ眦(まなじり)を決するようにして追いかけてきたより「大きく、遠く、効率的」にという価値観から脱却し、より「小さく、近く、美しく」へと物差しを逆転しなければなりません。

 

そして2020年9月現在、この方向への転換の大きな契機が世界中に訪れています。言うまでもありません、新型コロナウイルスによるパンデミックがそれです。すでに日本でも報じられている通り、感染拡大をきっかけとして大都市部から小都市・地方部への移住に関心を示す人が増えています。

 

きっかけは、いわゆるリモートワークです。リモートワークが常態化すれば、そもそも職場と住居を近接させる意味がありません。社員意識調査の世界最大手であるギャラップ社によれば、従業員のエンゲージメントは「週に80%の仕事をリモートワークにした場合、もっとも高まる」と発表しています。つまり通勤は週に1~2回程度がもっとも生産性が高く、それ以上の通勤を求めるとかえって生産性が落ちるということです。

 

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ビジネスの未来 エコノミーにヒューマニティを取り戻す

ビジネスの未来 エコノミーにヒューマニティを取り戻す

山口 周

プレジデント社

ビジネスはその歴史的使命をすでに終えているのではないか? 21世紀を生きる私たちの課せられた仕事は、過去のノスタルジーに引きずられて終了しつつある「経済成長」というゲームに不毛な延命・蘇生措置を施すことではない…

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