「ベーシック・インカム」が必要な理由
ここからはユニバーサル・ベーシック・インカム(以下、UBI)の考察に入りましょう。最近はいろいろなところで議論されているので、すでにご存じの方も多いと思いますが、ここであらためてUBIとは何かを簡単に説明しておきます。
UBIとは「文化的で健康な生活を維持するのに必要な金額を、無条件で、全国民に対して、給付する」という制度のことです。たとえば日本の生活保護など、従来の社会保障のほとんどが、一定の条件に該当する人に対して限定的・選択的に施されるのに対して、無条件で全員、つまりユニバーサルに与えられるという点に特徴があります。
私はここまで、私たちの高原社会における経済は、私たちの人間性に根ざした衝動によって駆動されるコンサマトリーなものに転換させよう、と主張してきましたが、この転換を成功させるためにはUBIの導入が必要だと考えています。
というのも、すべての人が、あたかもアーティストやダンサーといった人たちが衝動に突き動かされて作品やパフォーマンスを生み出すのと同じように、活動に関わり、活動そのものから愉悦や充実感を覚えることができるコンサマトリーな社会を目指すにあたって、経済的な安定性に関する懸念が、大きな阻害要因になると考えられるからです。
UBIの導入については、すでにさまざまな場所で議論が行われていますが、ほとんどの場合、導入の目的として設定されているのが「貧困の解消」と「格差の是正」です。私自身はもちろん、憎むべき貧困と格差の問題がUBIの導入によって解決される……あるいは少なくとも是正されることを肯定的に評価していますが、UBI導入の効果はそれだけにとどまらず、さらに大きな副次的領域にも及ぶと思っています。
それは「ライフスタイルの多様化」と「社会的イノベーションの促進」です。どういうメカニズムでUBIの導入によって「ライフスタイルの多様化」と「社会的イノベーションの促進」が起きるのか、考察しましょう。