バリューチェーンからバリューサイクルへ
モノを作るプロセスの中に受益者側が入り込んで、そこでいろんな反応をすることで、またアウトプットの方向に影響を与えることになるというシステムを、バリューチェーンとの対比で表現すれば、それはバリューサイクルとなります。顧客である消費者が受け取る効用が、そのまま生産者にとっての次の生産の資源となる無限のサイクルです。
これを図式化したのが下図の右側にあるチャートです。バリューチェーンが「購買・消費」の先に何もないデッドエンドであるのに対して、こちらは「購買・消費」がまた新たな「労働・生産」にエネルギーを与えるオープンエンドのシステムとなっていることがわかるでしょう。これをバリューチェーンに変わるものとしてバリューサイクルと名付けたいと思います。
バリューサイクルでは、もはや消費者は、これまでのそれとは異なり、単に「消費する人」ではあり得ません。彼らはいわば「労働者・生産者」に対して、労働・生産のための経済的・精神的エネルギーを提供する「資源=リソース」となるのです。
このような「生産者」と「消費者」の関係を、すでに19世紀において構想していたのが、先ほども取り上げたカール・マルクスでした。マルクスは、初期の草稿ノートに次のように記しています。
<私の生産物を君が享受あるいは使用することのうちに、私は直接につぎのような喜びを持つであろう。すなわち、私の労働によって、ある人間的な欲求を満足させるとともに人間的な本質を対象化したと。>
マルクス・エンゲルス『Marx Engels Gesamtausgabe(MEGA)』より
このような社会においては「消費」あるいは「購買」は、私たちが現在考えるようなネガティブなものではなく、言うなれば「贈与」や「応援」に近いものになるでしょう。その関係はちょうど、アーティストとパトロンの関係に喩えられるものに近くなります。つまり、社会になんらかの価値を生み出そうとして活動する人々がいる一方で、片方に、その人々の活動を支援するために、彼らの生み出した価値に対してできるだけ「大きな」対価を、半ば贈与という感覚も伴いながら提供しようとする関係性です。