物流DXを実現するために必要な「資金力以外」の要素
このような物流DXが可能なのは、同社が大企業で資金も豊富だからではないか、と考える人も多いかもしれませんが、そうではありません。
企業の規模が大きくなるほど社員は多くなりますから、改革の意義を浸透させ、気持ちを一つにまとめるのは大変です。また、取り引き先の数も多くなりますから、システムの変更について一社一社と合意していくのは気が遠くなるような作業です。
社員10名程度の会社であれば「明日からウェブ制作会社になろう」と言ってもなんとかなるかもしれません。しかし、社員を何万人も抱える企業がいきなりビジネスモデルを転換するのは不可能です。取り引き先、株主などの数多くの利害関係者がいるなかで、自分たちのやり方を変えるのは簡単ではないのです。
その意味では、会社の規模が小さいほど、変革はしやすいのです。ただ、筆者が強調したいのは、「企業の規模は関係ない」ということです。多くのグループ企業を抱える大企業でも、社員10名の小規模事業者でも、改革を成功させるために必要なのは「経営者の意識改革と決意」です。それなくしては、どんな小さな改革も実現しません。
また時代の大きな流れを理解して改革を実施していかなければ、急な変化にとまどうことになります。それを怠った途端に破綻の危機に陥ることさえあります。経営トップがそのことを強く認識しなければなりません。
特に今は、どこか一つの部分を改革して最適化していくだけでは対応できないような変化が起きています。既存の仕組みを一度壊して、またつくり直すくらいの思い切った改革でなければ、世界のデジタルシフトには追いつきません。
デジタルシフトを進めない限り、激化する市場競争を勝ち抜くことは、ますます困難になるでしょう。デジタルシフトの目的は「効率化や省人化」ではありません。顧客ニーズを叶えるために必要なインフラを考え、デジタルで再構築する。この“顧客ファースト思考”への転換こそが目的であり、本質です。
そのときに必要になるのが、強力なリーダーシップです。トップがリーダーシップを発揮して、全社を巻き込む覚悟が必要です。企業の将来を左右するような改革を現場の社員や外部のコンサルタントに任せておくわけにはいきません。
ファーストリテイリングが改革を実現できたのも柳井 正氏がリーダーシップを発揮したからです。トップダウンで、「服屋ではなくデジタル企業になるつもり」でビジネスモデルを抜本的に見直すことを示し、自らが率先して動いたのです。それによって社内の意識改革が実現し、パラダイムシフトが起きたのです。
東 聖也
株式会社オンザリンクス
代表取締役
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