(※写真はイメージです/PIXTA)

せっかく有効な遺言書を書いても、相続で裁判となる可能性があります。ここでは行政書士の山田和美氏が、太郎さんの遺言書を例に、相続争いを起こさない遺言書について解説します。※本連載は、書籍『「きちんとした、もめない遺言書」の書き方・のこし方』(日本実業出版社)より一部を抜粋・再編集したものです。

「包括遺贈」「特定遺贈」どちらも有効ではあるが…

法的なことのみを言えば、包括遺贈も特定遺贈も遺言書の書き方として認められており、「有効か、無効か」と聞かれれば、いずれも有効です。しかし、本例のような包括遺贈は、遺産分割協議が必要になってしまう点が致命的です。

 

仮に太郎さんが他界した後、太郎さんの預金300万円があった銀行に、長男がこの遺言書を持って手続きに行ったとします。この場合、300万円の3分の2である200万円を長男に払い戻す対応をする金融機関はほとんどありません

 

なぜなら、遺言書には「全財産の3分の2」を長男に相続させるという記載があるのみなので、

 

「不動産も3分の2と3分の1の割合で共有にしたうえで、預貯金もそれぞれの金融機関の分を長男と二男が3分の2と3分の1の割合で相続する」

 

のか、あるいは、

 

「全財産の3分の2にあたる不動産を長男が相続し、預金はすべて二男が相続する」

 

など別の分け方をするのか、この遺言書のみでは判断ができないためです。曖昧さがある内容なので、すんなりと預金を引き出すことは不可能です

 

預金の払い戻し手続きを行なうためには、原則、長男と二男が話し合い、「具体的にどちらがどの財産をもらうか」を決め、その結果をまとめた遺産分割協議書等が必要なのです。銀行は、この遺産分割協議の結果をもとに預金の払い戻し等の手続きに応じることになります。

 

話し合いがまとまらなければ、遺言書がなかった場合と同様に、裁判等に発展する可能性があります。

 

その裁判で主張できるそれぞれの取り分が、遺言書がなかった場合の「長男、二男それぞれ2分の1相当分」から、この遺言書によって「長男が3分の2相当分、二男が3分の1相当分」に変更されているだけなのです。

 

包括遺贈のほうが、記載自体は楽なので、このような遺言書をつくろうとする人もいるかもしれません。しかし、安易に割合のみで指定してしまうのではなく、包括遺贈の場合には、原則として遺産分割協議が必要になるということを知ったうえで、判断するようにしてください

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