エンロン事件を機に、「ガバナンス強化」の企業が評価
ESGの「G」、特に「ガバナンス・不祥事」に焦点を当てたショート戦略は、以前からヘッジファンドの伝統的な投資戦略の一つとして活用されてきた。
不祥事、特に「コーポレートガバナンス(企業統治)」の問題については20年前のこととはいえ、2001年から2002年にかけての米国での会計不正・粉飾事例(特にエンロンやワールドコムの事例)が引き合いに出されることが多い。そのときの背景について説明する。
当時、ITバブルとして株式市場が活況を呈するなか、経営者のストックオプションなど、株式に連動する報酬の割合が増加。経営者が自らの報酬を増加させるため、企業の本質的な利益を増やす政策の実施以上に、見かけ上(会計上)の利益を増やす行為をしていたとされている。
また、バラ色の長期業績見通しや事業の拡大期待を株主に提供したことなどが市場で評価され、一段の株価上昇をもたらした可能性もある。そのような行為を見抜けなかった、もしくは止められなかった取締役会の不備に加え、経営者の報酬のあり方や倫理観・グリード(強欲)および投資家の未熟さ・非合理性に関心と批判が高まった。
しかし、当時の株式市場において、報告利益を魅力的に見せる会計処理の変更は「創造的会計」とみなされ、経営者、投資家、監査法人ともに概ね許容していた。かつ、このような手法が使える人材を高い会計スキルを持つ逸材として評価し、厚遇していた大きな時代の流れがあったことも忘れてはなるまい。
そのような時代の反省なども踏まえ、ESGの「G」の観点から企業のガバナンス強化を持続的に促そうとするESG投資に市場の注目が集まるようになった。
米国を中心に「ESG投資の規模」は増加しているが…
2021年7月19日に世界持続的投資連合(GSIA)は、2020年の世界のESG投資額が35.3兆ドル(約3900兆円)になったと発表した。GSIAは2年に1回、日米欧など世界5地域のESG投資の普及団体が年金基金や資産運用会社などを対象に実施したアンケートを基に「ESG投資額」を公表しているが、今回発表された数値は2018年比で15%増となった。
地域別では米国が17.1兆ドルと過去2年で42%増えるなど欧州を上回り、世界最大の投資規模になった。資本主義の先頭を走る米国でのESG投資の拡大は目を見張るものがあるが、依然としてESG投資の有効性・必要性については投資家の間で賛否両論ある。
なぜなら、投資家側および投資される企業側においても、実務上、ESGの取り組みがどのような価値を社会に提供し、また組織にもたらしているのか、さらにそれらが実際に企業価値向上にどの程度寄与するのかという点を明確な数値として分析・判断することは難しいからだ。
このような困難な問題にチャレンジすべく、ESGと企業価値向上の関係の可視化(非財務価値の定量分析)に積極的に取り組んでいる企業もある。その一つが、日本の大手製薬会社の「エーザイ」だ。
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