本記事は、東海東京調査センターの中村貴司シニアストラテジスト(オルタナティブ投資戦略担当)への取材レポートです(取材日:6月14日)。本記事では、東京都心5区(千代田・中央・港・新宿・渋谷区)のオフィスビル平均空室率(6月9日三鬼商事公表)をはじめとしたさまざまなデータをもとに、中村氏が足元のJ-REIT市場を整理するとともに、今後の見通しを考察します。
東京都心5区の空室率はほぼ横ばい
Jリートの取得資産の概ね4割を占め、指数ベースでの影響度が大きいオフィス市況について毎月、東京都心5区の統計をフォローしている。
2022年6月9日に三鬼商事が東京都心5区(千代田・中央・港・新宿・渋谷区)の5月時点のオフィスビル平均空室率と賃料を発表した。空室率は6.37%と小幅(-0.01%)に低下した(図表1)。
5月は成約が中規模の動きに留まったものの解約の影響が少なかったことから、平均空室率はほぼ横ばいとなった。
新築ビルの5月時点の空室率は19.91%(図表2。前月比+0.62ポイント)。5月は新築ビルが3棟竣工し1棟は高稼働となった一方、2棟で募集面積を残したため、同空室率が上昇したようだ。
既存ビルの5月時点の空室率は6.23%(前月比-0.02ポイント)。5月は解約の影響が少なかったことから同空室率は小幅に低下した。平均賃料(3.3平方メートルあたり)についても20,319円(前月比-9円)となり、22ヵ月連続して下落した。
5区別の空室率を見ると、IT・スタートアップの多い渋谷区の空室率は下落基調が続いておりトレンドは良好。一方、(空室率が最も高い)港区の空室率は緩やかに低下しているものの、依然として高止まりしている(図表3)。
また中央区や新宿区などの空室率は上昇。区によってまちまちのトレンドとなっており、全体の改善度合いは鈍いといえる。
賃料の前年比の推移をみると、トレンドは改善しているものの、やはり先行性のある空室率のトレンドを重視したい(図表4)。
経済正常化が進展した場合でも、新型コロナ前のように全面的にオフィスに人が戻らず、ハイブリッド(オフィスと在宅・リモートとの併用)の流れは変わらないとみる。
移転にともなって賃借面積を縮小する動きなどから2次空室の動きが全体の空室率の高止まりをもたらす可能性があろう。
加えて、来年には東京23区のオフィスビルの大量供給問題である「2023年問題」も抱えるなか、FRBによる引き締め強化が年後半から来年にかけグローバル景気の一段の減速をもたらし(指数への影響度が大きい)オフィスリートの上値を抑えるとの見方を維持する。
東海東京調査センター
投資戦略部 シニアストラテジスト(オルタナティブ投資戦略担当)
山一證券、メリルリンチ日本証券、損保ジャパンアセット(現SOMPOアセット)などでの富裕層・法人営業に加え、年金基金、投資信託のアナリストやファンドマネージャーとして新興市場やオルタナティブを含む幅広い市場・商品の担当責任者を経て、2016年に東海東京調査センター入社。
現職では短中期の戦術的資産配分(タクティカル・アセットアロケーション)やオルタナティブ投資(ヘッジファンド・テクニカルやコモディティ戦略含む)の視点を踏まえたグローバルな日本株の市場分析等を行う。他の代替資産・戦略としてJリート投資戦略、ESG投資戦略、行動ファイナンス投資戦略などもカバーしている。
英国国立ウェールズ大学経営大学院MBA。アライアント国際大学・カリフォルニア臨床心理大学院米国臨床心理学修士号(MA)。慶應義塾大学商学部卒。国際公認投資アナリスト(CIIA)、日本証券アナリスト協会認定アナリスト(CMA)、国際テクニカルアナリスト連盟検定テクニカルアナリスト(MFTA)、CFP、英国王立勅許鑑定士(MRICS)、不動産証券化協会認定マスター、中小企業診断士。
日経CNBCなどのTV・メディアに出演。日経新聞、QUICK、ロイター、ブルームバーグ、時事通信、東洋経済オンライン、幻冬舎ゴールドオンラインなどでも執筆、コメントを行う。ヘッジファンド・テクニカルのキャリアとして世界のテクニカルアナリスト協会を束ねる国際テクニカルアナリスト連盟(IFTA)の理事などを歴任。早稲田大学ビジネスファイナンスセンターや同志社大学、青山学院大学等で講師を務める。
著書には投信営業に行動ファイナンスアプローチなどを活用した『会話で学ぶ!プロフェッショナルを目指す人の「投信営業」の教科書』(2021年)がある。
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