ヘッジファンドのリスク計測には、複数の指標を使う
ヘッジファンドのリスクの計測については、実務上は正規分布を前提とした標準偏差だけでなく、下方偏差に加え、「VaR(バリューアットリスク)」「ES(期待ショートフォール)」「歪度」「尖度」などを基にして複合的に判断することが多い。
たとえば、「VaR(Value-at-risk)」は、ある特定の信頼水準における最大損失額を表すが、欠点として、損失がVaRよりも大きくなった場合にその損失額がどの程度巨額なものになりうるのかがわからない点がある。
そこで、この欠点をカバーする指標として、損失がVaRを超える条件のもとでの期待損失額を表す「ES(Expected Shortfall)」がある(参照:『VaR、ES、尖度…計測指標を活用して「ヘッジファンド投資」のリスクを管理する方法』)。
なお、VaRやESはテールリスク(極めて低い確率で株価が大幅に下落するリスクのこと)を捉えようとする一つのリスク管理指標であり、その計算には、「分散共分散法」「モンテカルロ法」「ヒストリカル法」がよく使われる。それぞれ解説する。
◆分散共分散法
分散共分散法は、リスクファクターが正規分布にしたがって変動し、リスクファクターに対する資産・負債の現在価値の感応度が一定であると仮定してVaRを算出する方法であり、「デルタ法」とも呼ばれる。
正規分布を前提にしているため、ポートフォリオ理論との親和性があり、かつVaRの計算が比較的容易である一方、リスクファクターの変動が必ずしも正規分布に従うとは限らず、非線形の分析対象に上手く対応できない点には留意が必要である。
◆モンテカルロ法
モンテカルロ法は、将来のリターン分布に何らかのパラメトリックな分布(正規分布に限らない)を想定し、その分布に従う疑似乱数または準乱数を発生させ、将来のリターンのシナリオを多数作成し、VaRを算出する方法である。
リスクファクターの確率分布について、正規分布以外も想定が可能(非線形に対応)だが、乱数を発生させることで大量のデータが生成され、計算負荷が重くなるという欠点がある。ただし、近年ではコンピュータで処理できる能力が各段に高まったことで、このような欠点は解消されつつある。
◆ヒストリカル法
ヒストリカル法は、過去のリスクファクターから理論価値をさかのぼって算出し、信頼水準に相当するパーセンタイル値からVaRを算出する方法である。過去のデータ変動に基づく分布、たとえば非線形リスクにも対応することができる反面、過去に生じた分布しか扱えない。また、データ数とデータ計測期間をどのように取るかで計測結果が不安定化しやすいという欠点がある。
ファットテールなど非線形リスクのある実際の金融市場や非線形をみせるヘッジファンド分析などにおいては、モンテカルロ法やヒストリカル法の活用がより望ましいといえる。
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