グローバルマクロ型ヘッジファンドによる日本での「ESGのロングショート」今後の注目ポイント (※写真はイメージです/PIXTA)

本連載は、東海東京調査センターの中村貴司シニアストラテジスト(オルタナティブ投資戦略担当)への取材レポートです。今回は、世界中の国や地域のマクロ経済の見通しから投資する「グローバルマクロ型」のヘッジファンドが、日本で今後とる可能性がある「ESGのロングショート」の注目ポイントを見ていきます。

グローバルマクロ型のESGヘッジファンドの基本戦略

グローバルマクロ型のヘッジファンド(主にトップダウン型)によるESGのロングショートアイデアの構築(特に国・地域ごとの差別化戦略)は、大きく次の2つに分けて考えると理解しやすい。

 

※グローバルマクロとは、株式、債券・金利、為替など世界中の国や地域のマクロ経済の見通しや、財政・金融政策なども把握したうえで、各国の株式、債券、為替などに対して(レバレッジやロング・ショート戦略も組み合わせて)ポジションを構築し、収益を上げる投資手法のこと。

 

1. 歴史、地理、風土、文化、風習、国民性、産業の発展段階の違いなどをベースとするもの

2. 金融・資本・証券市場の規制、制度、会計の違いや個別企業の積み上げとしての指数・業種・利益構成および相関、ファクターの違いなどをベースとするもの

 

ここでは、2つ目のなかの「証券市場の規制や重要情報」の視点から、日本で今後どのようなESGのロングショート戦略がとられる可能性があるのかについて考える。

アナリストやファンドマネージャーに求められる役割

日本では内部者取引を直接規制する法令として「金融商品取引法」があり、第166条では、上場会社等の業務等に関する「未公開の重要事実」を知った者の当該会社の特定有価証券等の売買等を禁止している。

 

また、公益社団法人日本証券アナリスト協会も『証券アナリスト職業行為基準実務ハンドブック』で、「会員は、証券の発行者との信任関係その他特別の関係に基づき当該発行者に係る未公開の重要な情報を入手した場合には、これを証券分析業務に利用し、または他の者に伝えてはならない」としている。

 

さらに2018年4月には、企業がアナリストやファンドマネージャーなどに「未公表の重要情報」を伝えた際に、直ちに公表を求める「フェア・ディスクロージャー・ルール」の規制が導入された。

 

※金融商品取引法第27条の36の規定では「重要情報」について、「当該上場会社等の運営、業務又は財産に関する公表されていない重要な情報であって、投資者の投資判断に重要な影響を及ぼすもの」と規定されている。

 

この規制により、日本のアナリストやファンドマネージャー自体が投資パフォーマンス(α)の源泉(差別化要因)になるとして、決算前に個別の取材などを通じて未公表の業績動向等の早耳情報を取得することで、短期的な値上がり見込みの高い株の買いを推奨・買い付ける行為の抑制を図った。短期的な値下がり見込みの高い株の売りを推奨・売却する行為も同様である。

 

言い方を変えれば、日本のアナリストやファンドマネージャーが、ショートターミズム(=短期志向)に陥ることなく、中長期的な視点から日本企業を取り巻く業界分析に加え、個別企業の成長性や収益性を分析して企業価値を評価することも役割の1つとして求められるようになったとも言える。

 

加えて、企業との建設的な対話などを通じて企業価値の向上に貢献し、また企業価値向上に取り組む企業を評価して成長・発展のために直接金融を通じて当該企業に資金を供給するといった重要な役割を果たすことも、日本のアナリストやファンドマネージャーに直接、間接的に求められたと言えるのかもしれない。

 

このように、建設的な対話や中長期の企業価値の評価が求められるなかで、日本のアナリストやファンドマネージャーは、企業価値評価のプロセスに「ESG評価項目」を取り入れ、投資判断に活かそうとしている。

 

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東海東京調査センター
投資戦略部 シニアストラテジスト(オルタナティブ投資戦略担当)

山一證券、メリルリンチ日本証券、損保ジャパンアセット(現SOMPOアセット)などでの富裕層・法人営業に加え、年金基金、投資信託のアナリストやファンドマネージャーとして新興市場やオルタナティブを含む幅広い市場・商品の担当責任者を経て、2016年に東海東京調査センター入社。

現職では短中期の戦術的資産配分(タクティカル・アセットアロケーション)やオルタナティブ投資(ヘッジファンド・テクニカルやコモディティ戦略含む)の視点を踏まえたグローバルな日本株の市場分析等を行う。他の代替資産・戦略としてJリート投資戦略、ESG投資戦略、行動ファイナンス投資戦略などもカバーしている。

英国国立ウェールズ大学経営大学院MBA。アライアント国際大学・カリフォルニア臨床心理大学院米国臨床心理学修士号(MA)。慶應義塾大学商学部卒。国際公認投資アナリスト(CIIA)、日本証券アナリスト協会認定アナリスト(CMA)、国際テクニカルアナリスト連盟検定テクニカルアナリスト(MFTA)、CFP、英国王立勅許鑑定士(MRICS)、不動産証券化協会認定マスター、中小企業診断士。

日経CNBCなどのTV・メディアに出演。日経新聞、QUICK、ロイター、ブルームバーグ、時事通信、東洋経済オンライン、幻冬舎ゴールドオンラインなどでも執筆、コメントを行う。ヘッジファンド・テクニカルのキャリアとして世界のテクニカルアナリスト協会を束ねる国際テクニカルアナリスト連盟(IFTA)の理事などを歴任。早稲田大学ビジネスファイナンスセンターや同志社大学、青山学院大学等で講師を務める。

著書には投信営業に行動ファイナンスアプローチなどを活用した『会話で学ぶ!プロフェッショナルを目指す人の「投信営業」の教科書』(2021年)がある。

●オルタナティブ投資戦略(東海東京TV)
https://www.tokaitokyo.co.jp/tv/public/market/global.html

著者紹介

連載東海東京調査センター「オルタナティブ投資戦略取材レポート」

このレポートは、投資判断の参考となる情報の提供を目的としたもので、投資勧誘を目的としたものではありません。投資判断の最終決定は、お客様自身の判断でなさるようお願いいたします。このレポートは、信頼できると考えられる情報に基づいて作成されていますが、東海東京調査センターおよび東海東京証券は、その正確性及び完全性に関して責任を負うものではありません。なお、このレポートに記載された意見は、作成日における判断です。

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