ヘッジファンドのリスクを計測する指標に、「VaR(バリューアットリスク)」「ES(期待ショートフォール)」「尖度(せんど)」などがあります。今回は、これらの計測指標や他の戦略を組み合わせて、「ヘッジファンド投資」のリスクを管理する方法について考えていきます。※本連載は、東海東京調査センターの中村貴司シニアストラテジスト(オルタナティブ投資戦略担当)への取材レポートです。
オルタナティブ投資…「代替資産」と「代替戦略」
今回はオルタナティブ戦略の一つとして、ヘッジファンドのリスク管理・計測について取り上げたい。
オルタナティブ投資は、株式や債券といった伝統的な投資資産とは異なる「①代替資産(オルタナティブ・アセット)」と、従来と異なる戦略である「②代替戦略(オルタナティブ・ストラテジー)」の2つに分けられる。
ヘッジファンド投資は②の代替戦略にあたり、伝統的な資産や戦略と異なるリスクリターン特性を得ることにより、分散投資でリスクを低減しながら少しでも高いリターンの獲得を目指すために活用されることが多い。
「ロング・ショート戦略」は危険なのか?
2021年に入り、米個人投資家による投機的な動き(米ゲームストップ株の急騰など)により、ロング・ショート戦略をとっていたヘッジファンドはショートスクイーズ(株価急騰により、ショート筋が損失を限定するために買い戻しを行う現象)により、多額の損失を計上したと報じられた。
実際、米ヘッジファンドのメルビン・キャピタル・マネジメントは2021年1月に運用資産の53%を失った。このようなニュースフローなどを受け、ヘッジファンド投資はそもそも投機的で危険であり、慎重姿勢をとるべきだとの声もある。
一方、データ検証・実証などのアカデミック(学術的)アプローチによるリスク管理に加え、銘柄分散やドローダウン(最大資産からの下落率)コントロールなどを徹底することで、このような環境下でも安定したパフォーマンスを上げていたロング・ショート型のヘッジファンドもある。
また、ヘッジファンドには個別銘柄のロング・ショート戦略以外にも多様な運用戦略があるため、先ほどのような個別株のロング・ショート型の大規模な損失の事例は、ヘッジファンド業界全体の話ではなく、また戦略に問題があるのではなく、"過剰流動性下でのリスク管理"に問題があった一部のファンドの動きとして捉えた方がよさそうだ。
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東海東京調査センター
投資戦略部 シニアストラテジスト(オルタナティブ投資戦略担当)
山一證券、メリルリンチ日本証券、損保ジャパンアセット(現SOMPOアセット)などでの富裕層・法人営業に加え、年金基金、投資信託のアナリストやファンドマネージャーとして新興市場やオルタナティブを含む幅広い市場・商品の担当責任者を経て、2016年に東海東京調査センター入社。
現職では短中期の戦術的資産配分(タクティカル・アセットアロケーション)やオルタナティブ投資(ヘッジファンド・テクニカルやコモディティ戦略含む)の視点を踏まえたグローバルな日本株の市場分析等を行う。他の代替資産・戦略としてJリート投資戦略、ESG投資戦略、行動ファイナンス投資戦略などもカバーしている。
英国国立ウェールズ大学経営大学院MBA。アライアント国際大学・カリフォルニア臨床心理大学院米国臨床心理学修士号(MA)。慶應義塾大学商学部卒。国際公認投資アナリスト(CIIA)、日本証券アナリスト協会認定アナリスト(CMA)、国際テクニカルアナリスト連盟検定テクニカルアナリスト(MFTA)、CFP、英国王立勅許鑑定士(MRICS)、不動産証券化協会認定マスター、中小企業診断士。
日経CNBCなどのTV・メディアに出演。日経新聞、QUICK、ロイター、ブルームバーグ、時事通信、東洋経済オンライン、幻冬舎ゴールドオンラインなどでも執筆、コメントを行う。ヘッジファンド・テクニカルのキャリアとして世界のテクニカルアナリスト協会を束ねる国際テクニカルアナリスト連盟(IFTA)の理事などを歴任。早稲田大学ビジネスファイナンスセンターや同志社大学、青山学院大学等で講師を務める。
著書には投信営業に行動ファイナンスアプローチなどを活用した『会話で学ぶ!プロフェッショナルを目指す人の「投信営業」の教科書』(2021年)がある。
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