日本の機関投資家は「戦略的資産配分」を重視してきた
日本の機関投資家(特に年金基金)においては、戦略的資産配分にみられるように、長期の投資方針として「固定的な政策アセットミックス」を策定し、これを維持することが長らく重視されてきた。
この背景には、「市場には変動の波がありながらも長期的には右肩上がりで推移する」との前提があったことに加え、市場は概ね効率的で投資家は合理的であり、売買タイミングを計ることは困難であると考えられてきたことが挙げられる。
戦略的資産配分では、投資家の期待収益率とリスク許容度を基に様々な資産クラスの長期的なリスク・リターンを計測し、適切な資産の組み合わせを設定する。短中期的な市場の変動がありながらも、当初設定した資産ウェイトを長期で維持することが基本である。
そのため、市場の変動により、ターゲットとする資産構成から乖離した場合は、定期的にリバランスを行う。たとえば、長期の資産構成ウェイトが株式40%、債券60%と決まっているとする。市場の変動によって株式比率がポートフォリオの50%に上昇し、債券比率が50%に低下した場合、株式の一部を売却しつつ、追加の債券を購入しリバランスを行うオペレーションをとる。
実務担当者は、「従来の理論的なモデル」を疑問視
先ほどのような戦略的資産配分をベースにして、定期的にリバランスをしながら長期の上昇トレンドについていくという戦略に対して、2000年以降、年金を運用するファンドマネージャーやポートフォリオマネージャーだけでなく、年金基金を委託する実務担当者からも疑問の声が上るようになった。
特に楽観、悲観、陶酔、恐怖などの投資家心理や投資家行動が市場を支配し、ITバブルやリーマンショックなど数々の市場の荒波のなかで運用を行ってきた実務担当者から、
「市場は本当に効率的で投資家は合理的との前提が正しいのだろうか?」
「効率的市場仮説をそのまま鵜呑みにしていいのだろうか?」
との声が強まった。ちなみに参考までに、伝統的ファイナンスでは、投資家の合理的な意思決定は次のような前提のもとで行われる。
①期待効用最大化…期待効用を最大化するように意思決定を行う。
②資産の一体化…単なる損得ではなく、最終的な富、つまりポートフォリオ全体の価値で評価する。
③リスク回避…期待値が同一ならリスクが小さい方を好む。
④ベイズの定理…ある仮説の確からしさ(事前確率)は新たな情報が加わるとベイズの定理によって事後確率に更新される。
⑤合理的期待…予測は、入手可能で適切な情報をすべて正しく反映する。
なお、伝統的ファイナンスのベースとなっている「効率的市場仮説」は、すべての情報があらゆる種類の証券価格に瞬時に反映される仮説のことをいう。そして、資産運用の理論的背景である現代証券投資理論(MPT)は、この効率的市場仮説を前提にしている。
効率的市場仮説は、証券価格に反映される「利用可能なすべての情報」をどのように考えるかによって、「ウィーク・フォーム」「セミストロング・フォーム」「ストロング・フォーム」の3種類の効率性に分けられる。
このような前提や仮説に対して、市場の荒波に揉まれた実務者からの「市場は本当に効率的で投資家は合理的との前提が正しいのだろうか?」と疑問の声が強まったのである。特に、次のような声が多く聞こえた。
「市場に平均回帰の動きが生じず、上昇する資産はますます上昇し、反対に下落する資産はますます下落するなどのポジティブフィードバックが起こった場合、年金運用として対応をどのようにすればいいのか?」
「本来、まれにしか起こらない急落にたびたび直面し、基本ロング戦略を継続し、ダウンサイドリスクの抑制策をあまり講じていないなかで、最大ドローダウンへの対応をどのようにすればいいのか?」
「長期の統計データではあまり想定しにくい資産・銘柄間の相関が過度に高まるとき(資産分散が効かないとき)、対応をどのようにすればいいのか?」
「期間損益と対内・対外的な説明責任の両方が求められるなか、戦略的資産配分を行う前提がたびたび機能しなくなる局面に陥った場合、年金を委託している顧客および社内的な説明をどのように合理的に行えばいいのか?」
従来の理論的なモデルの想定にない(また起こる確率が非常に低い)市場の合理的とは言えない変動にたびたび遭遇することによって、上記の疑問、不安の声が社内外で共有された。
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