2-1-3.「洪水リスク」のデータ
国土交通省は、洪水等の水害被害を軽減することを目的として、水防法に基づき、「洪水浸水想定区域」を公表している。「洪水浸水想定区域」は、これまで河川整備において基本となる降雨※によって浸水が想定される区域が指定されていたが、近年、頻発する豪雨災害を受けて2015年の水防法の改定で、想定し得る最大規模の降雨※を前提した区域に拡充された。
※100年から200 年に1回程度の雨
※1,000年(あるいはそれ以上)に1回程度の大雨
国土交通省「国土数値情報ダウンロードサービス」を元に、東京都区部における「洪水浸水想定区域」を図表8に示した。「洪水浸水想定区域」は、多摩川が流れる大田区や世田谷区、江戸川や荒川が流れる江戸川区や江東区、墨田区、足立区、北区、板橋区等の一部が該当する。本稿の分析対象物件の内、20%が洪水浸水想定区域内に立地している。
2-2.分析手法
分析の手法は、地価分析などの不動産市場分析で多く用いられるヘドニック・アプローチを採用した。この考え方に基づき、以下の推定式を構築し、「地震リスク」と「洪水リスク」が分譲マンション価格へ及ぼす影響を推定した。
2-3.分析結果
分析の結果、「地震リスク」は分譲マンション価格に対し、統計的に有意な影響を与えていることが分かった。具体的には、分譲マンション価格は、「建物倒壊危険度」が1ランク高い場合、約▲2.3%低いことが示唆された。[図表10]。
最も危険度の高い「建物倒壊危険度5」のエリアに立地する分譲マンションの価格は、「建物倒壊危険度1」のマンションと比べて、約▲9.2%低いこととなる。
一方、「洪水リスク」は、分譲マンション価格に対し、統計的に有意な影響は見られなかった。ファミリータイプの物件に限定した分析においても、「洪水リスク」は、分譲価格に対し統計的に有意な影響は見られなかった。
2011年の東日本大震災をはじめとして、マグニチュード6.0以上の大規模な地震は毎年発生しており、地震が建物に甚大な被害を及ぼすことは人々の記憶に強く残っている。内閣府「防災に関する世論調査」によれば、「自分や家族の場合に当てはめて、被害に遭うことを具体的に想像した災害」について、「地震」との回答が最も多かった[図表12]。
また、前述の「住宅の購入や地盤に関する意識調査」でも、「住宅購入の際に消費者が気にする項目」の上位2項目(「地耐力(地盤の強さ)」と「地震時の揺れやすさ」)は地震に関する項目であった。地震に関するリスクは人々に広く認知されており、マンション価格にも明確な負の影響を及ぼしている。
一方、「洪水リスク」に関して、前述の「防災に関する世論調査」では、「津波」との回答は25%、「河川の氾濫」との回答は24%となり、「地震」(86%)の3分の1以下である。また、2015年以降の東京都区部での異常気象による浸水被害状況を確認すると、多くの台風や集中豪雨に見舞われているものの、100棟以上が浸水するといった大きな被害は幸運にも3回にとどまる[図表13]。
地震被害と比べて、洪水被害の具体的イメージを持つ人が格段に少なく、分譲マンション価格に対して、明確な負の影響を及ぼさなかったのかもしれない。
また、川沿いや海の近い物件は、周りに建物が少なく、眺望や日当たりがよい等のメリットがあり、「リバーサイド」や「ウォーターフロント」に立地するマンションとして人気が高い物件もある。こうした状況も、価格への影響がなかった要因の1つと考えられる。
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