2.自然災害リスクがマンション価格に及ぼす影響
2-1.分析対象
本項では、「自然災害リスク」の中で、特に、消費者の関心の高い「地震リスク」と「洪水リスク」に関する情報が、マンション価格に及ぼす影響について分析を行う。マンションの購入検討者が、「地震リスク」と「洪水リスク」に関する情報を考慮していれば、「地震リスク」や「洪水リスク」の高いエリアに立地するマンションの価格は低くなると考えられる。
2-1-1.「住宅価格」のデータ
本調査は、東京都区部に立地する分譲マンションを分析対象とした。具体的には、2019年1月から12月に販売された分譲マンションの物件データを用いて分析を行った[図表2]。
また、住宅に住む世帯属性により、「自然災害リスク」に対する評価が異なると考えられる。例えば、「単身世帯を対象とした住宅」と比べて、「家族世帯を対象とした物件」では、「自然災害リスク」に対する評価が厳しくなる可能性がある。そこで、「ファミリータイプ(間取りが2LDK以上)」の物件に限定した分析も併せて行うこととした。
2-1-2.「地震リスク」のデータ
東京都は、防災対策の一環として東京都震災予防条例に基づき、1975年以降、概ね5年毎に「地震に関する地域危険度測定調査」を公表している。同調査では、都内の市街化区域の5,177町丁目について、各地域における地震に対する危険性を「建物倒壊危険度」、「火災危険度」、「総合危険度(上記2指標に災害時活動困難度を加味して総合化した値)」の3つの指標を用いて5段階で相対評価し、地域の地震に対する危険度を明らかにしている[図表3]。
「建物倒壊危険度」は、地震の揺れによって建物が壊れたり傾いたりする危険性を評価したものである。具体的には、地震による「面積当たりの建物全壊棟数」を町丁目毎に算出し、5段階で相対評価している。「面積当たりの建物全壊棟数」は、その地区の建物量(棟数)に地盤特性と建物特性ごとの建物被害率を掛け合わせて、測定している[図表4]。
「火災危険度」は、地震の揺れで発生した火災の延焼により、被害を受ける危険性を評価したものである。具体的には、地震による「面積当たりの建物全焼棟数」を町丁目毎に算出し、5段階の相対評価している[図表5]。
「面積当たりの建物全焼棟数」は、「出火の危険性」に「延焼の危険性」を掛け合わせて、測定している。「出火の危険性」は「火器・電熱器等の保有数」、「世帯数」、「地盤増幅率」を、「延焼の危険性」は「建物棟数密度」、「建物構造」、「広い道路・公園の数」をもとに算出している。先行研究※を参考にし、地震リスクを表す指標として「建物倒壊危険度」を採用した。
※ 山鹿久木・中川雅之・斉藤誠(2002)「地震危険度と地価形成:東京都の事例」『応用地域学研究』第7号, 51-62
「火災危険度」および「総合危険度」では世帯の集積が危険度評価のマイナス要素として評価されている。本来、世帯の集積は一般的に人気があることを示し、不動産(地価)に対してはプラスの影響を与える要素であるため、地震リスクに対する評価が過小に推定される可能性がある。本稿ではこうした影響がないと考えられる「建物倒壊危険度」を「地震リスク」を表す指標に採用した。
東京都区部において「建物倒壊危険度」の高い町丁目は、台東区、墨田区、江東区、荒川区、足立区など区部東部に多い。危険度ランクの高いエリアは、揺れやすい地盤で、建物が密集しており、築年数が経過した木造等の住宅の割合が大きい傾向にある[図表6]。
本稿の分析対象における「建物倒壊危険度」の分布は、「建物倒壊危険度1」が30%、「建物倒壊危険度2」が32%、「建物倒壊危険度3」が28%、「建物倒壊危険度4」が8%、「建物倒壊危険度5」2%であった[図表7]。