要旨
気候変動等の影響により、全国の市区町村の9割以上にあたる1692市区町村で10年間に1回以上の水害が発生している。また、マグニチュード6.0以上の地震の内、約2割が日本周辺で発生している。このように、日本は、極めて「自然災害リスク」が高い国といえる。
不動産投資を考える上でも、「自然災害リスク」が不動産取引に与える影響を把握することは重要と思われる。そこで、本稿では、「自然災害リスク」の中で、特に、消費者の関心の高い「地震リスク」と「洪水リスク」が、分譲マンション価格に及ぼす影響について分析した。
本稿の分析では、分譲マンション価格に対し、「地震リスク」は統計的に有意な影響が見られた。具体的には、分譲マンション価格は、「建物倒壊危険度」が1ランク高い場合、約▲2.3%低いことが示唆された。一方、「洪水リスク」は影響が見られなかった。
2020年7月に宅建業法施行規則が改正され、不動産取引時における重要事項説明の際に、水害ハザードマップを提示し、取引対象物件の所在地について説明することが義務化された。この改正により、不動産取引の意思決定において「洪水リスク」に関する情報の重要性の認識が高まり、分譲マンション価格にも影響を及ぼす可能性がある。
1.はじめに
近年、気候変動等の影響により、全国各地で毎年のように甚大な河川水害が発生している。国立環境研究所が提供する気候変動適応情報プラットフォーム(A-PLAT)によれば、全国の市区町村の9割以上にあたる1692市区町村で10年間に1回以上の水害が発生している。
また、大規模な地震は概ねプレート同士がぶつかる摩擦が原因で発生するが、日本周辺には4つのプレート(ユーラシアプレート・太平洋プレート・北米プレート・フィリピン海プレート)が集中している。そのため、マグニチュード6.0以上の地震の内、約2割が日本周辺で発生している※。このように、日本は、極めて「自然災害リスク」が高い国といえる。
※一般財団法人国土技術研究センター調べ
2017年の一般社団法人全国住宅技術品質協会「住宅の購入や地盤に関する意識調査」によれば、「住宅購入の際に消費者が気にする項目」として、「地耐力(ちたいりょく:地盤の強さ)」との回答が最も多く、次いで「地震時の揺れやすさ」、「浸水の可能性、標高」との回答が多かった[図表1]。「地震リスク」および「洪水リスク」を気にする住宅購入検討者は多いといえる。
こうした背景から、不動産投資を考える上でも、「自然災害リスク」が不動産取引に与える影響を把握することは重要と思われる。本稿では、「自然災害リスク」が住宅価格形成にどのような影響を及ぼしているのか分析したい。