(※写真はイメージです/PIXTA)

日本企業の粉飾決算や品質不正について、結構な頻度で報じられています。ニュースを見るたび「またか…」とウンザリしてしまいますが、社名を大きく報道され、各方面からしつこく追及されても、なかなかなくならないのが不思議です。じつは、そこには社員の共同体である「企業という組織」特有の性質が大きく影響しているのです。経済評論家の塚崎公義氏が解説します。

「恥」を感じない犯罪の場合、抑止は困難になりがち

一般の刑法犯は、本人も恥ずかしいと思い、周囲も白い眼で見るわけですが、品質不正や粉飾決算等については「会社のために仕方なくやったことだ」ということですまされる場合が多いので、裁判外での制裁が非常に軽く、したがって抑止力が働きにくい、ということがいえそうです。

 

バレにくく、バレても刑法上の罪は軽いし、刑法以外の社会的制裁も非常に軽いというわけで、抑止力が弱い一方、会社のために自分の身をリスクに晒してまで頑張るという会社人間的な発想がインセンティブとして働くわけですから、普通の刑法犯とはまったく状況が異なるわけです。恥ずかしいという気持ちよりも、むしろ会社のために自分を犠牲にしているといったヒーロー気分さえ味わっているのかもしれません。

 

場合によっては、「だれにも迷惑をかけていない」という意識もあるかもしれません。品質不正が何十年もバレていないということは、基準が厳しすぎるだけで、基準を守らなくてもとくに問題は生じない、ということかもしれないからです。

 

粉飾決算についても、一時的な赤字なのだから、利益が回復すれば何事もなかったように元気な会社に戻れるはずだ、という場合は、粉飾決算がバレなければだれの迷惑にもならないでしょう。むしろ、銀行団が融資を引き揚げることで会社が倒産すれば従業員等が路頭に迷いかねないところを、自分の粉飾決算が救ったと考えているのかもしれません。

 

そうした価値観等は極めて「昭和的」といえるのかもしれませんが、企業社会はいまでも結構昭和的な文化が残っているでしょうし、そもそも経営陣の多くは「昭和の人間」でしょうから。

 

繰り返しますが、筆者は品質不正や粉飾決算を容認しているわけではありません。とくに元銀行員である筆者は、粉飾決算には強い憤りを感じています。誤解のないようにお願いします。

「不正をやりはじめた人」を追及できればいいのだが…

刑事罰が軽く、社会的制裁も受けにくいとなると、悪事を止めさせるには株主代表訴訟で巨額の損害賠償を請求するくらいしか有効な手段がないかもしれません。しかし、それとて限界がありそうです。

 

品質不正等々は、前任者が行っていた場合に後任が止めるのは容易なことではありません。批判の矢面に立つのは自分ですし、社内では「前任者の悪事を内部告発した」といわれかねないからです。

 

そうした状況で、数十年間続いた不正がバレたとして、いちばん悪い人は最初に不正をした人なのに、その人は時効で刑罰も損害賠償も免がれ、やむをえず続けた現役だけが罰を受けるということになりかねません。

 

それではいくら株主代表訴訟等々で巨額の損害賠償をしても、次からの不正を思いとどまらせる抑止力とはなりにくいでしょう。

 

むずかしい話だとは思いますが、品質不正や粉飾決算等については、時効制度の適用をなくして、最初に不正をした人に巨額の損害賠償を請求できるようにしてほしいものですね。

 

あとは、人々の正義感に期待するしかなさそうです。共同体のメリットは大きなものがありますから、共同体的な文化が消滅することは期待しにくいでしょうが、共同体的な価値観を上回るような正義感を持った人が出てきて不正を思いとどまる、ということに期待しましょう。

 

今回は以上です。なお、本稿は筆者の個人的見解であり、筆者の所属する組織等々の見解ではありません。また、このシリーズはわかりやすさを最優先として書いていますので、細かい所について厳密にいえば不正確だ、という場合もあり得ます。ご理解いただければ幸いです。

 

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塚崎 公義

経済評論家

 

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