「日本人労働者、1人あたりの所得が減少」「米国軍人の死亡率、米国民の死亡率より低い」それ、ホント?…統計の読み方の注意点【経済評論家が解説】

「日本人労働者、1人あたりの所得が減少」「米国軍人の死亡率、米国民の死亡率より低い」それ、ホント?…統計の読み方の注意点【経済評論家が解説】
(※写真はイメージです/PIXTA)

さまざまな数字を集計・比較して、予想を立てたり傾向を探ったりする「統計」。大変有益で、興味深いものですが、その読み解きには細心の注意が必要です。うっかりしていると、とんでもない落とし穴にハマることになりかねないからです。詳しく見ていきましょう。経済評論家の塚崎公義氏が解説します。

統計を見ずに判断するのは危険だが、見る場合も注意が必要

物事を考える際には、まず事実をしっかり把握する必要があり、そのためには統計を見ることが大いに役立ちます。

 

印象だけで物を考えたりいったりすることは大変危険であり、「事実と違う」と反論されてしまえば終わりです。

 

しかし、統計を見ればよいというものではありません。統計を見る際に注意すべき事柄は数多くあります。気をつけないと、統計を見たことがかえって誤った判断の原因となってしまうかもしれません。

 

それから、統計使いにも注意が必要です。「統計使いは統計を使って嘘をつく」という言葉もあるようですから(笑)。

統計は「バックミラー」のようなもの

統計は、過去の姿です。統計を見て将来を予想するのはバックミラーを見ながら運転するのと似たようなものです。見ないよりいいですが、過去の延長線上でものを考えると間違えることも多いので、要注意です。

 

株価や地価が上がり続けているとき、「このまま上がり続けるだろう」と考えるよりも、「ずいぶん高くなったから、今後はむしろ暴落が心配だ」と考えるほうがよいかもしれません。どちらを選ぶかは、「現在の株価や地価は適正水準と比較して高すぎるのか否か」といったことを考えて判断するしかありませんね。

 

バブル期には、借金をして不動産を購入した人が大勢いました。そのとき銀行は、積極的に融資をしていました。「不動産価格は上がり続けるだろうから、不動産を担保にとっておけば安心だ」と考えたのでしょう。あるいは、「過去1年間、不動産担保融資で焦げ付いた事例は1つもない。不動産担保融資は安全だ」と考えたのかもしれません。いずれにしろ、それが大失敗だったことは、いまではみんなが知っているわけですね。

えっ…「アイスクリームの販売数」と「水難事故件数」が連動!?

A氏とB氏が似ているとしても、A氏がB氏の親だとは限りません。子かもしれないし、兄弟かもしれないし、偶然似ている他人かもしれないからです。

 

同様に、似た動きをするものがあっても、どちらかが原因だとは限りません。「アイスクリームが売れる日は水の事故が多いから、アイスクリームの販売を禁止しろ」というのは馬鹿げていますね。気温が高い日はアイスクリームがよく売れるし、同時に水遊びをする人が増えるので水の事故が増えるのです。

 

因果関係の話は重要なので、別の機会に詳述することにしましょう。

前年比は便利だが、落とし穴も

統計を見るときには、前年比を使うことも多いですね。2月のチョコレートの売上を1月と比べても「バレンタインデーだからチョコレートが売れた」というだけで意味がありませんが、昨年の2月と比べれば、今年の売上が好調だったか否かが判断できるからです。

 

しかし、前年比を使うときには注意が必要です。昨年8月にオリンピックがあったとしたら、テレビがよく売れたはずです。そうなると、今年の8月のテレビの売上は前年比がマイナスになるでしょう。それを見た販売店の社長が部下に「怠けている」と叱るのは馬鹿げています。

 

そうしたことが起きないようにするためには、前年比よりも「季節調整値」というものを見ることが望ましいのですが、季節調整値の話は長くなるので、別の機会に詳述することとしましょう。

グラフを見るときは、各項目を注意深く観察して

グラフを見ると、統計が簡単に理解できる場合も多いですが、注意が必要な場合もあります。たとえば下記の図表で、1番成長している企業はどれでしょうか。

 

[図表]1番成長しているのは?

 

A社は1から2に100%増、B社は10から19に90%増加、C社は10から18に80%増加しているので、正解はA社です。グラフを見て直感的に理解することは重要ですが、やはり注意深さも必要だ、ということですね。

統計の作り方にも要注意

「米国軍人の死亡率は、米国民の死亡率より低いので米軍は安全な所だ」といわれても、真に受けてはいけません。米軍には高齢者が少ないからです。「20歳から60歳までの米国国民」と比べないと、米軍が安全な所か否かは判断できないのです。

 

会社員の配偶者が無職だったとしましょう。ある日からパートで働くようになったら、家計の所得は増えますが、「我が家の勤労者1人あたりの所得」は減ります。それを見て「我が家は貧しくなった」と嘆くのは馬鹿げていますね。

 

しかし、「日本人労働者の1人あたり所得が減っている」ということを嘆いている人は大勢いるのです。「世の中が労働力不足で専業主婦(主夫)や定年後の高齢者たちが働きに出るようになった」というだけかもしれないのに。統計を会社員とそれ以外に分けて作成すれば誤解を招かないのですが。

 

もうひとつ。ビジネスマンアンケートで評判最高のホテルと評判最悪のホテルが同じだ、ということが起こり得ます。巨大ホテルは大勢が泊まるので、「気に入ったホテルは?」にも「失望したホテルは?」にも多くの票が入ります。回答者の何%が気に入ったのか、という比率で見れば、そうした問題はないのですが。

読み取るべきメッセージはなにかを考える

インフレ率が9.9%から10%に上がったとき、「インフレ率は概ね10%で推移している」というほうが「インフレ率が2桁になった」と大騒ぎするよりも、実際の経済を上手に描写しているわけですが、後者の表現をする人も多いですね。聞き手の関心を掴むほうが話しを聞いてもらえますからね。

 

統計を扱う人のなかには、「海の水を一口飲んだから、海の水が減った」といい張るような人もいます。筆者としては「ほとんど減っていない」というように心がけているわけです。そのほうが、読み取るメッセージとして適切だと考えるからです。

 

余談ですが、同じ数字でも話し方ひとつで相手の受け取り方が大きく変わるので、要注意です。「私の手術の成功率は90%を誇っています。今朝の手術も、見事に成功しました」という医師と、「私の手術は10回に1回は失敗するのです。今朝の手術も失敗してしまいました」という医師がいるとして、どちらの医師に手術を頼みたいですか? どちらでも同じなのですが。

 

今回は、以上です。なお、本稿はわかりやすさを重視しているため、細部が厳密ではない場合があります。ご了承いただければ幸いです。

 

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塚崎 公義
経済評論家

 

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