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ブラジルレアル:3月頃から上昇に転じたが、大統領のワクチン汚職疑惑で軟調に
ブラジルレアル(対ドル)は3月頃から上昇に転じていましたが、足元軟調です(図表1参照)。
レアルが足元売られた主な背景は、ボルソナロ大統領が新型コロナウイルスのワクチン輸入に関する汚職に関与した疑いが浮上したためです。
なお、12日のレアルは反発しました。背景はブラジル中央銀行の週次調査で、エコノミストの22年末政策金利予想が前回(休日があり6月28日)の6.75%から7%に引き上げ金融引締め姿勢強化が想定されたことなどによります。
どこに注目すべきか:ブラジル、ワクチン、不正疑惑、世論調査
資源国という強みに加え、金融政策の引締め転換や、財政規律に取り組む姿勢を見せたことで、ブラジルレアルは回復傾向にありましたが、足元やや不安の芽が生まれました。直接的にはボルソナロ大統領も含めたワクチン汚職疑惑です。捜査はこれからで今後の展開を待つ必要がありますが、市場が懸念しているのは来年の大統領選挙への影響と思われます(図表2参照)。
まず、新型コロナのワクチン疑惑を簡単に振り返ります。ブラジル政府はインド製ワクチン「コバクシン」を輸入する契約を結びましたが、書類に不備があったにもかかわらず、発注するよう政権内部から圧力があったなど疑惑が生じていました。6月25日には、ボルソナロ政権を支持する下院議員の1人が議会委員会で、この不正問題を大統領に警告していたと証言したため、ボルソナロ大統領自身もスキャンダルに巻き込まれる事態となりました。
あわててボルソナロ大統領は、6月29日に、保健省の物流管理担当責任者の解任を発表しました。また、地元の報道ではこの担当責任者が別のワクチン購入でも賄賂を受け取った疑いを指摘しています。
こうした中、7月月初にブラジルの最高裁判所はワクチン購入に関する不正疑惑への対応を巡り、過失の疑いでボルソナロ大統領の捜査を開始することを検察に許可しました。憲法が認める大統領の免責は一時的に制限されるということとなります。疑惑を知りながら対応しないのはおかしい、という判断と思われます。今後の展開は捜査次第ですが、仮に単なる怠慢であったとしても、政治的な影響は残りそうです。新型コロナへの対応の失敗もあり、ボルソナロ大統領の支持率は低下傾向です(図表2参照)。
大統領選挙は来年秋が予定されており、まだ先のことながら、調査会社Datafolhaなどで支持率をみると、ルラ元大統領が50%近い支持を集めています。ボルソナロ大統領への支持はその半分程度です。
なお、選挙まで時間があることから大統領の弾劾裁判も考えられます。同じ調査で弾劾裁判への支持を見ると54%となっています。国民からの支持はある程度あるようですが、弾劾裁判の開始となると下院議員3分の2の賛成が必要で、その可能性は低そうです。
ワクチン疑惑の展開は捜査を待つ必要はありますが、ブラジルの政治、もしくは大統領選挙に関心が高まるとレアルには逆風となりそうです。ワクチン不正疑惑は大統領選挙を巡る思惑を早めたとも見られます。しかし、3月以降のレアル高の要因であった財政規律は議会の役割が大きいと思われます。議会選挙も大統領選挙と同時期に行われる見込みですがまだ情勢は固まっていない面もあり、様子を見る時間もありそうです。
また、別のレアル高支援要因であった政策金利の引き上げは、市場でも当面レアル安を抑制すべく引き締めが想定されています。懸念される状況ながら、今後の動向を注意深く見守る姿勢もひとつの選択肢と思われます。
※当レポートの閲覧に当たっては【ご注意】をご参照ください(見当たらない場合は関連記事『ブラジルレアル、足元の動向について』を参照)。
(2021年7月13日)
梅澤 利文
ピクテ投信投資顧問株式会社
運用・商品本部投資戦略部 ストラテジスト
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