遅れる日本のワクチン接種…米国の「トランプ政権時」と類似点 (※写真はイメージです/PIXTA)

世界中の人々の生活を大きく変えた、新型コロナウイルス感染症。現在も新規感染者が増加している国がある一方で、コロナ以前の「もとどおりの生活」を取り戻している国もあるなど、「回復力」の差は広がるばかりです。感染再拡大やワクチンの供給不足、4度目の緊急事態宣言…数々の懸念材料を持つ日本が回復力を取り戻すには、どうすればよいのでしょうか? ボストン在住の医師が解説します。

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米国「新型コロナウイルスの回復力ランキング」1位に

ブルームバーグ・ニュースは、毎月、世界53の主要経済国の「新型コロナウイルスの回復力ランキング」を評価しています。5月末に発表された時点で、日本はその1ヵ月前よりも順位を落とし、ランキング7位から14位に後退していました。6月末の最新のランキングで、日本は、さらに23位にまで引き下がりました(※1)

 

新型コロナウイルスのパンデミックから約1年半が経過した今、ブルームバーグ・ニュースは、世界で“最高の場所”と“最悪の場所”を、ますます「正常化(パンデミック前の状態への回復の程度)」によって定義するようになりました。

 

史上最大規模のワクチン接種活動によって、「世界各地でマスク着用義務の廃止、行動規制の緩和、入国制限の撤廃」が始まり、どれだけ活動を再開できるかが生活の質を改善するカギとなっています。そのため「新型コロナウイルスの回復力ランキング」では、“過去1ヵ月間における人口10万人あたりの新型コロナ感染者数”などの10の指標に、新たな「再開の進捗状況」として、「地域への出入りのしやすさ(ワクチン接種を受けた人たちの移動の自由度)」と、「航空機による移動がどれだけ回復したか(過去4週間の飛行機の座席数を2019年の同時期と比較して算出したもの)」という2つの指標を追加しました。

 

この2つの変更により、ランキングが劇的に変化しました。米国は、ワクチン接種率が高く、新型コロナウイルスの流行が弱まり、航空機による移動が正常に近づき、ワクチン接種者の渡航制限がほとんどありません。そのため、かつて世界最悪であったパンデミックを食い止め、今回のランキングでは第1位となりました。1.9兆ドルの経済対策と予防接種による消費者の信頼感のおかげで、米国は今年、爆発的な経済成長を遂げようとしています。

 

また、スイス、フランス、スペインなどのヨーロッパ諸国は、ワクチン接種を受けた観光客に国境を開放して、さらにワクチン接種により入院件数が減少したため、トップ10に入っています。

 

一方、シンガポール、香港、オーストラリアなど、これまでランキングで好成績を収めてきたアジア太平洋地域の国々では、厳しい国境規制が続き、ゼロトレランス政策により、再開が制限されています。ウイルスの侵入は防いでいますが、ますます「孤立」を深めています。回復力ランキングにおける再開の評価は低く、順位が後退しています。台湾もワクチン接種の遅れと流行の再燃で、ランキングが下位に転落しています。

 

インド、フィリピン、ラテンアメリカの国々は、変異株の流行、ワクチン接種の遅れ、世界的な孤立という、パーフェクトストーム(風数の災難が同時に起こり、破壊的な事態になること)によって最下位となりました。

 

※1 https://www.bloomberg.com/graphics/covid-resilience-ranking/

免疫力の格差は「接種済みの地域」にとっても致命的

免疫力の格差は、世界に脅威を与えています。新型コロナウイルスが野放しになって広がるほど、より危険性の高い、新たな変異株が発生する機会が増えます。ワクチンを接種した場所でも、新たな変異株が入ってきて、新たな感染の波が起こるかもしれません。

 

米国などの西側諸国の指導者たちは、ワクチンを接種していない人々に対して、急速に広がるデルタ型の影響を受けやすいことを警告しています。ワクチン接種率が高い第4位のイスラエルでは屋内マスクの義務化が復活し、外国人観光客への国境の開放が遅れています。

 

第9位の英国では、パブが賑わい、「グリーンリスト」(※2)に掲載されている場所に海外旅行に行くことができます。ただしデルタ型の拡大により、英政府は、当初6月21日に予定していた社会の全面的な再開を1ヵ月延期せざるを得なくなりました。

 

6月22日の「ネイチャー」によると、イングランドとスコットランドの予備調査で、デルタ型は、アルファ型の感染に比べて、入院の可能性が約2倍になることが示されました(※4)。ただし予防対策として、2回のワクチン接種が有効です。アストラゼネカまたはファイザーのワクチン1回接種で、デルタ型の発症リスクが33%減少したのに対し、アストラゼネカのワクチンを2回接種で、デルタ型の予防効果は60%、ファイザーのワクチン2回接種で88%の効果が得られました(※5)。英政府は、2回のワクチン接種をできるだけ早く受けることを推奨しています。

 

※2 グリーンリスト:英国政府は信号機システムで、渡航先の国をグリーン(緑)、アンバー(琥珀)、レッド(赤)の3つのリストに分類し、入国時のルールを規定しています(※3)。日本はアンバーです。レッドリストは、英国、アイルランド国籍をもつ者、英国に在留資格をもつ者以外は英国への入国は禁止。アンバーリストは、入国後10日間自己隔離と、入国前の新型コロナウイルス検査陰性証明、入国後の2回(2日目以前と8日目以降)の検査予約など。グリーンリストは、入国前の新型コロナウイルス検査陰性証明、到着後2日目検査予約など。

 

※3 https://www.gov.uk/guidance/red-amber-and-green-list-rules-for-entering-england

 

※4 https://www.nature.com/articles/d41586-021-01696-3

 

※5 https://www.gov.uk/government/news/vaccines-highly-effective-against-b-1-617-2-variant-after-2-doses

日本の挽回には「ワクチンの流通管理システム」が必要

日本は、ワクチン接種率の低迷と感染者の増加、感染を封じ込めるための緊急事態宣言が続き、世界から孤立が進んでいます。「正常化」に向けて、ワクチン接種の普及が欠かせません。ところが、最近のニュースで「ワクチン不足」による職域や自治体での接種の中止や延期、医療機関などが保管する「在庫」が報道されています。

 

実際、私は接種現場で「供給不足のために職域接種が突然キャンセル」というトラブルに直面したり、体調不良のなか接種当日を迎えた方に「キャンセルすると予約を取り直さなければならないので、どうしても打ってほしい」と依頼されたりなど、日々問題に遭遇しています。このような状況で、私は、米国のワクチン接種計画を州に依存したトランプ政権を想い出します。

 

バイデン政権発足直後、CDC所長のロシェル・ワレンスキー博士は、「連邦政府は、米国の新型コロナウイルスのワクチン保有量を把握していません」「(連邦政府が)もし、ワクチン保有量をあなたに伝えられないのであれば、知事や州の保健担当者にも伝えられません」「今週だけでなく、来週、再来週のワクチンの量がわからないと、接種計画を立てることはできません。どれだけの施設を展開すればいいのか、どれだけの接種者が必要なのか、どれだけ一般の人に予約を入れればいいのかがわからないのです」と述べました(※6)

 

また、ポリティコ(Politico)は、バイデン政権が発足した最初の10日間について、「ワクチンの謎」に包まれていたと指摘します(※7)

 

トランプ政権は、連邦政府が購入して、各州に2,000万本以上のワクチンを供給していましたが、それらのワクチンが投与されたという記録はなかったのです。バイデン政権の発足から1週間が経過したとき、この謎が、全国的なワクチン接種活動を加速させる計画の妨げとなっていました。結局これらのワクチンの多くは、倉庫に箱詰めされていたり、冷凍庫で眠っていたり、政府から各州に至る複雑な流通経路のどこかにあると判明しました。

 

つまり、トランプ政権のもとで、米政府の流通拠点から、国民がワクチン接種するまでのシステムが何も整備されていなかったということです。その代わり、ワクチンは各州に届けられた後、各州の公衆衛生システムに追跡調査が任されていました。

 

ワレンスキー所長は、各州が割り当てられたワクチンをどのように管理すべきかについて、より明確な指針を示すことを約束しました。その後、ホワイトハウスは各州に対し、使用しなかった分のワクチンを押収し、他の場所に再配分する許可を出しました。こうして、米国では今、透明性の高いワクチンの情報が共有できます。

 

日本でも、政府の流通拠点から国民がワクチン接種するまでのシステムを、早急に整備するべきでしょう。

 

※6 https://www.cnbc.com/2021/01/24/cdc-director-government-does-not-know-how-much-covid-vaccine-the-us-has.html

 

※7 https://www.politico.com/news/2021/01/30/biden-covid-vaccine-states-463953

 

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大西 睦子

内科医師、医学博士

星槎グループ医療・教育未来創生研究所 ボストン支部 研究員

 

 

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星槎グループ医療・教育未来創生研究所 ボストン支部 研究員 内科医師、医学博士

米国ボストン在住。東京女子医科大学卒業後、同血液内科入局。国立がんセンター、東京大学医学部付属病院血液・腫瘍内科にて造血幹細胞移植の臨床研究に従事。2007年より、ボストンのダナ・ファーバー癌研究所に留学し、ライフスタイルや食生活と病気の発生を疫学的に研究。08年から13年まで、ハーバード大学で、肥満や老化などに関する研究に従事。ハーバード大学学部長賞を2度授与。現在、星槎グループ医療・教育未来創生研究所ボストン支部の研究員。

【主な著書】
『カロリーゼロにだまされるな――本当は怖い人工甘味料の裏側』(ダイヤモンド社)
『「カロリーゼロ」はかえって太る!』(講談社+α新書)
『健康でいたければ「それ」は食べるな』(朝日新聞出版)

著者紹介

医療と社会の間に生じる諸問題をガバナンスという視点から研究し、その成果を社会に発信していく特定非営利活動法人「医療ガバナンス研究所」による学会。「官でない公」を体現する次世代の研究者の育成を目的とし、全国の医療従事者が会員として名を連ねている。

著者紹介

連載医療従事者が本音で語る「日本社会」の現状~GGO For Doctor

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