(※写真はイメージです/PIXTA)

病床機能の再編を推し進めるには、現場スタッフの協力が不可欠だ。各施設が地域から求められている役割を果たすには、施設の状況に合わせた自主的な運営がなされなくてはならず、トップダウン方式で「このような機能の病床をこれだけ配置する」と決めたとしても、十分に稼働させられなければ意味がない。現場スタッフの力を集めるために、筆者らはどのような取組みを行っているのか。

病床機能の再編…書類上は「順調」に見えたが

筆者が勤務する医療グループ「ときわ会」は、もともと1つのクリニックからスタートしました。現在は約30の施設を運営していますが、そのうち3つは病院です。

 

そのうちの1つ、磐城中央病院は、もともとは地域の別の医療法人が運営していた施設です。その医療法人は、2018年に60億円を超える負債を抱えることとなり、民事再生法を申請していました。2019年からときわ会が経営を引き継いでいます。磐城中央病院の他にも、医療機関や介護施設などをいくつか運営していました。しかしながら、機能的な編成ができていなかったようです。

 

磐城中央病院がときわ会グループの施設になったとはいえ、他の施設にいると内部の様子がわからないまま、譲渡から2年が経っていました。2ヵ月ほど前、いよいよ、ということでときわ会グループの事務局長が現場にデスクを構え、事務局長付だった筆者も一緒に現場に入りはじめたという次第です。そして7月1日から筆者が、ときわ会グループ事務局長付と兼任する形で、磐城中央病院の事務長を務めることとなりました。

 

現場を歩き回っていると、「今まで言えなかったことがいろいろとあるんです」という声が聞こえてきます。一体、どうなっていたのでしょうか。

 

磐城中央病院では病床機能の再編が進められてきています。それまで目にしてきた資料では計画的に進んでいるようには見えていましたが、本当のところ現場ではどうなっているのか、気がかりではありました。

 

機能再編を進め、実際に病床を稼働させていくには、どのような患者さんが入院しているかのでータを集約し、それを元に効果的なベッドコントロールを行うことが必要です。患者さんの情報集約には現場の医事スタッフの力が必須です。しかし他の業務で手一杯で、なかなか対応しきれていないと聞いていました。

 

実際に現場を回ってみると、ただでさえ入院の会計業務、入力業務をこなすので精一杯のところ、入院患者さんのお見舞いに来たご家族の誘導や、発注した物品の受け取り、業者対応、電話対応なども行っていました。その都度手を止めなければならず、落ち着いて作業をすることができない状況で、会計業務も後手後手になってしまっていました。

物品管理に手が回っていない…「機能再編」以前の問題

他のスタッフが、窓口となる場所に席を構えるだけでも変わるのでは…などと思案しましたが、さらに現場を歩くと、そもそもの環境整備が必要だということがわかってきました。

 

たとえば、事務スタッフが普段業務をしている周辺の棚や引き出しの中は、何がどこに入っているかわからず、スカスカなスペースがある割には棚や引き出し自体の数は多く、邪魔になっています。筆記用具などの一般的な消耗品も整理されておらず、払い出しの管理などはなされていませんでした。

 

霊安室にも問題がありました。事前に「霊安室が物置のようになってしまっている」という話は聞いていましたが、見てみると、すっかり使われていない古いスリッパが入った棚や、中身の入っていないロッカーが置かれていました。霊安室と呼ぶにはまったく相応しくありませんでした。

 

玄関周りも、改めて見てみると決して良い状態ではありませんでした。病院の建物は、入院棟と外来棟と二つにわかれています。特に入院棟の玄関には「外来棟は右側の建物です」との案内がされていますが、玄関の自動ドア周辺に、似たような掲示がいくつもされ、立て看板にまで示されています。そのうえ、貼るものは養生テープです。「コロナにより面会制限中」という掲示も、何枚も重複して貼られていました。雑多すぎて、結局何も患者さんに伝わらない状態です。

 

他にも、靴の汚れを落とすマットが玄関だけで3枚も置かれている、ほとんど使われることのない傘立てが2つある、5年以上前のビラが入ったままのパンフレットスタンドが放置されているなど、あれこれ気付くところがありました。

 

そしてこれらはすべて、環境と化してしまっているようでした。

 

「とりあえず」と配置したものがその後、手を付けられることなく環境化してしまっていたのかもしれません。物品を床に置く、上に重ねるといった置き方が多く見られることからも、「とりあえず」の感覚が無意識で広がってしまっているようにも思えます。「とりあえず」が重なり合わさっているのであれば、患者さんと関わる部分は全体としてデザインされているはずもありません。

「現場スタッフが活躍できる環境」をどう作るか?

こうなっているのは、現場スタッフが悪いわけではありません。一緒に現場のスタッフと手を動かす中で様子を見ると、萎縮してしまっているような印象を受けました。信頼されていないと感じていたのかもしれません。「とりあえず」は、「不機嫌」を向けられたときに「当たり障りのないように、目立たないようにやり過ごそう」という考えで取った対応だったのかもしれません。

 

さて、このように現場を回りながら環境改善を進めていますが、これには、木村千春看護部長が一緒に取り組んでいます。現場のスタッフが積極的に色々と状況を発信するようになってきたのは、木村看護部長の力が大きいと考えています。彼女も、2ヵ月ほど前から磐城中央病院に来ています。

 

小柄な方で、見た目としては『ムーミン』のミィを優しくした感じです。ちなみにパソコンの待ち受けにもミィが覗いています。非常に快活で、「ゴミ袋持ってくるからね!」など動き出しが早く、「今やっちゃおう! ちょっとそっち持って!」と近くのスタッフに声をかけ、巻き込んでいくのが上手な方です。普段から、ありとあらゆる方への声かけを忘れません。

 

そして、いつでも機嫌が良いのです。自然と周りの人の考え方が前向きになり、建設的な話ができるようになってきています。いずれ病床機能の再編も一気に動き出すだろうと思うと楽しみです。

 

機嫌よくいること、そして、「声をかけ、一緒に手を動かして、お礼を言う」といった、当たり前にも思えるこういったことの積み重ねは、現場スタッフが活躍できる環境を整えるうえでとても大切なのだと勉強させていただいています。

 

 

杉山 宗志

ときわ会グループ

 

 

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