長引くコロナが「取り返しのつかない少子化」をもたらす可能性

新型コロナウイルスの流行により、さらに出生率が下がった日本。アメリカの研究者は「パンデミックによる出生率の低下は、これまでの少子化に加えて、社会に大きな変化をもたらす」と予測しています。出生率はこのまま減り続けるのか、コロナが収束すれば回復するのか、それとも上がるのか。パンデミックが出生率にもたらす影響について、各研究者の予測を見ていきましょう。

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出生率の低下は、ある意味で「サクセスストーリー」

ワシントン大学のクリストファー・マレー博士らは、2020年7月刊行の医学雑誌『ランセット』に、「出生率の低下により、世界の人口は2064年にピーク(約97億人)に達したのち、今世紀末には約88億人にまで減少する」という予測を発表しました(※1)

 

なかでも日本、タイ、スペイン、イタリア、韓国を含む23ヵ国は「人口が半分になる」、中国の人口は48%減少すると予測されました。

 

調査によると、出生率が持続的に低下している原因は「女性の教育、避妊へのアクセスの改善」です。つまり、教育を受けて仕事に就く女性が増えたこと、また避妊が簡単になったということ。BBCは「出生率の低下は、いろいろな意味でサクセスストーリー」と述べています(※2)

 

さらに、世界人口の減少は、環境問題や気候変動、食料生産に良い影響をもたらします。ただし出生率の低下が大きい国では、労働力や経済成長、社会的支援システムにマイナスの影響が生じるでしょう。これはまさに、日本の悩みですよね。

 

※1 https://www.thelancet.com/journals/lancet/article/PIIS0140-6736(20)30677-2/fulltext#%20

 

※2 https://www.bbc.com/news/health-53409521

 

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日本の女性が出産から遠ざかる3つの理由

さらに2021年5月5日、ニューヨークタイムズは「A Shrinking Society in Japan」で日本の少子化について取り上げ、日本女性が、あまり多くの子供を産み育てたがらない理由を説明しています(※3)。ポイントは以下の①~③です。

 

【①女性の労働力参入】

1970年代、他国のように、日本女性も労働力として参入し始めます。日本経済は好調でバブルを引き起こしました。ところが90年代初頭にすべてが崩壊し、そのまま長期停滞が始まります。生涯雇用の仕事をしていた多くの男性は、職を失ったり、賃金が減ったりしました。そこで家族を支えるために、多くの女性が労働力に加わりました。この時点で出生率が下がり始めています。

 

【②男性が結婚に不安を感じる】

この時期、多くの男性は良い仕事に就けない、仕事をしても賃金が上がらないなどの理由から、大きな不安を抱くようになりました。自分では妻や家族を養うことができず、結婚できないと感じたのです。これにより、出生率はさらに低下していきます。

 

【③「半分」で終わった革命】

米国では、女性の社会進出に伴い、カップルの間で「子育てと家事の再分配」という革命が起こりました。一方、日本の革命は半分しか進みませんでした。女性は仕事に行くようになりましたが、家庭でもすべての家事や子供の世話をする役割は変わりません。

 

米国の男性は1日2時間半の家事と育児を行いますが、日本の男性は、平均して1日41分間しか行いません。これは裕福な国のなかで最も低い数字です。さらに言えば、アメリカより日本のほうが、社会に出て働く女性の割合が増えています。

 

(※写真はイメージです/PIXTA)
(※写真はイメージです/PIXTA)

 

日本の女性たちは、必ずしも結婚したくないわけではありません。働きたい、楽しい時間を過ごしたいと純粋に思っているのでしょう。

 

そのため多くの女性が独身を選ぶか、あるいは結婚しても子供を欲しがらなくなりました。子供ができたら家事も何もかもやらなくてはならないという「暗黙の了解」から逃れ、伝統的な家族構造から離れていくわけです。

 

35歳から39歳までの女性において、未婚の割合はわずか10%でした。しかし今日ではほぼ4分の1にまで達しています。こうして出生率はさらに低下していきます。厚生労働省の「人口動態統計速報(2020年12月分)」によると、2020年1月から12月の日本人の出生数は、前年比2万5,917人減の87万2,683人と過去最低でした。

 

※3 https://www.nytimes.com/2021/05/05/podcasts/the-daily/japan-birthrate-ageing-population.html?searchResultPosition=7

イタリア北部では出生率「12%減」

新型コロナウイルスのパンデミックは、出生率に影響を及すのでしょうか。

 

イタリア北部は、特に2020年の春において、世界で最もパンデミックの影響を受けた地域の1つです。イタリアのジェノヴァ大学フランチェスカ・アンブロジーニ博士らの報告によると、2019年11月から2020年1月までのジェノア市の出生数は875人でしたが、翌年の同時期の出生数は770人と、105人も減りました。割合にするとマイナス12%です(※4)

 

イタリアではすでに、過去数十年間で出生数が減ってきていました。そのためこの減少の大部分は、パンデミックや移動制限措置だけによる影響ではないでしょう。ただしアンブロジーニ博士らは、パンデミックによって次の影響があったと考えています。

 

(1)移動の自由が制限され、医療専門家も一般人も性交の頻度が減り、必然的に出生が減った。

 

(2)制限措置により、特定の産業や経済などの部門で売上減少、賃金低下や失業を伴う国内総生産(GDP)の低下が避けられなかった。その結果、憂鬱や恐怖、将来への不安などの感情と相まって、妊娠への欲求が低下した。

 

(3)医療システムに対する負担を減らし、感染症の蔓延を抑制するために、政府発行の勧告により、緊急性のない医療サービスが一時的または完全に停止した。そのため、不妊治療は差し控えられ、ほとんどの生殖補助医療が延期となった。

 

※4 https://www.nature.com/articles/s41443-021-00434-7

 

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アメリカも大幅減…出生率がすぐ回復する可能性は低い

米疾病予防管理センター(CDC)の国立衛生統計センターが発表したデータによると、米国の出生率は2020年の第4四半期に低下し、前年の同じ時期に比べてマイナス6%以上と、大幅に減少しました。ただし米国の出生数も、パンデミックの前から減少し続けています(※5)

 

アメリカ公式の2020年の出生データによると、出生数は10年以上にわたってほぼ継続的に減少しています。出産可能年齢(15〜44歳)の女性1,000人ごとに見ると、2007年には69.5人が出産しましたが、2020年には55.8人と、20%も減少しました。合計特殊出生率(人口統計上の指標で、一人の女性が出産可能とされる15歳から49歳までに産む子供の数の平均)は、2007年の2.12から2020年には1.64に低下しました(※6)

 

このデータに対して、2021年5月、米シンクタンク「ブルッキングス研究所」の報告で、メリーランド大学経済学部メリッサ・カーニー教授らは、「米国の出生率と合計特殊出生率がすぐに回復する可能性は低い」と予想しています。

 

CNNにて、ニューハンプシャー大学社会学ケネス・ジョンソン教授は、「出生率はいつまで減り続けるのか、最終的にはパンデミック以前の水準に戻るのか、それとも増加し始めるのかを判断するのは時期尚早です。正直なところ、誰も知りません。とても特異な状況なのですから」と述べています(※7)

 

また、ウェルズリー大学経済学フィリップ・レヴィン教授は次のように語っています。

 

「経済的に厳しい状況にあるため、私たちは子供を持つことに消極的になりがちです。また、公衆衛生上の危機は、人々の生活に多大な不確実性をもたらします」

 

「パンデミックによる出生率の低下は、それまでの長きにわたる少子化に加えて、社会に大きな変化をもたらすでしょう」

 

「1950年代のベビーブーム後に見られた、莫大な社会的影響について考えてみてください。これは、その反対になる可能性があります」

 

※5 https://www.cdc.gov/nchs/data/vsrr/vsrr012-508.pdf

 

※6 https://www.brookings.edu/blog/up-front/2021/05/24/will-births-in-the-us-rebound-probably-not/

 

※7 https://edition.cnn.com/2021/05/05/health/pandemic-births/index.html

 

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このままだと、日本の人口減少は止まらない可能性

さて、マレー博士らは、本稿冒頭で紹介した『ランセット』に、人口減少の対策として4つの選択肢をあげています。

 

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①スウェーデンのように、女性の出産とキャリアの支援をする環境を作り、出生率を上げる。

 

②性と生殖に関する健康サービスへのアクセスを制限する。

 

1966年のルーマニアや1936年から1955年のソビエト連邦では妊娠中絶の禁止など、性と生殖に関するヘルスサービスへのアクセスを制限することで合計特殊出生率を高めようとした。

 

米国でも、一部の州がそれらを制限する政策の採用を検討している。ただし、これは非常に危険。「女性の自由と権利の進歩」を妥協してはならない。

 

③高齢者の労働力参加を増やす。日本では1990年から2015年の間に15〜64歳の成人の数が7.4%減少し、65〜69歳の労働力率は15.3%から20.8%に増加した。

 

④移民を促進する。米国、オーストラリア、カナダなどは、移民で人口減少が差し引きゼロになるので、生産年齢の人口を維持するだろう。

 

一方、日本、ハンガリー、スロバキア、バルト三国などは大幅な人口減少に直面しているが、移民を採用していない。これらの社会では、これまでのところ、言語や文化の均一な社会を維持したいという願望が、人口減少による経済的・財政的リスクや地政学的リスクを上回っている。

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ちなみにマレー博士は、前述のBBCにて、「ほぼすべての国の人口が減ったら、移民は解決策になりません。国境を開放するかどうかを選ぶ時代から、移民をめぐる明らかな競争へと移ります」と述べています。

 

さて、カーニー教授とレヴィン教授は、前述のCNNにて「危機が長く続き、その結果として所得の減少がより深刻かつ持続的になるほど、新型コロナで失われた出生数は、永遠に取り返せなくなるでしょう」と述べています。

 

ワクチン接種の遅れにより、日本はパンデミックの危機が長引く可能性があります。さらに外国人の入国制限が続き、移民対策も先延ばしになる可能性が高いでしょう。このままだと日本の人口縮小は止まりません。

 

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大西 睦子

内科医師、医学博士

星槎グループ医療・教育未来創生研究所 ボストン支部 研究員

 

 

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星槎グループ医療・教育未来創生研究所 ボストン支部 研究員 内科医師、医学博士

米国ボストン在住。東京女子医科大学卒業後、同血液内科入局。国立がんセンター、東京大学医学部付属病院血液・腫瘍内科にて造血幹細胞移植の臨床研究に従事。2007年より、ボストンのダナ・ファーバー癌研究所に留学し、ライフスタイルや食生活と病気の発生を疫学的に研究。08年から13年まで、ハーバード大学で、肥満や老化などに関する研究に従事。ハーバード大学学部長賞を2度授与。現在、星槎グループ医療・教育未来創生研究所ボストン支部の研究員。

【主な著書】
『カロリーゼロにだまされるな――本当は怖い人工甘味料の裏側』(ダイヤモンド社)
『「カロリーゼロ」はかえって太る!』(講談社+α新書)
『健康でいたければ「それ」は食べるな』(朝日新聞出版)

著者紹介

医療と社会の間に生じる諸問題をガバナンスという視点から研究し、その成果を社会に発信していく特定非営利活動法人「医療ガバナンス研究所」による学会。「官でない公」を体現する次世代の研究者の育成を目的とし、全国の医療従事者が会員として名を連ねている。

著者紹介

連載医療従事者が本音で語る「日本社会」の現状~GGO For Doctor

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