オンライン販売が進む中、自動車産業も続々参入
コロナ禍で変化に拍車がかかったのは実店舗からオンライン販売への流れだろう。アパレルではユニクロのように他社より先にオンラインに舵を切っていた会社はそれほど影響を受けていない。一方、ロックダウンが続くヨーロッパに店舗が多いH&Mは苦しい。実店舗での販売が主だったため、オンラインへの取り組みが遅れていたのである。
飲食店では店内での飲食だけでなく宅配を始めたところが目に付く。フードデリバリーという業種が活況となり、ウーバーイーツ、出前館の他、フィンランドからやってきたウォルトも日本で営業を始めた。
販売におけるオンラインの潮流はコロナ禍が一息ついたとしても、進んでいく。
むろん、自動車販売店もさらにオンライン販売への対応を進めていかざるを得ない。
これまで、自動車販売店の仕事とは次のようなものだった。
メーカーから仕入れた新車を対面でユーザーに売り、かつ、対面でサービスを提供する。サービスとは車検、オイルの補給、部品交換、洗車といったものだ。そして、車が古くなったら、販売店は対面でユーザーの車を下取りして、また新車を買ってもらう。下取りした中古車は他の客に売る。
サービスについてはリアルな店舗でやらざるを得ない。だが、新車販売についてはリアル店舗を通さず、メーカー直販する会社が現れてきた。そして、中古車ではオンライン販売が一般的になり、消費者同士の直接売買も行われるようになった。
新車のオンライン販売の嚆矢がEV専門の自動車会社テスラだ。テスラは設立当初からエンドユーザーにオンラインで売っている。
ユーザーはテスラのサイトから好みのモデルを選んで発注する。一部の代金を前払いし、納車を待つ。ユーザーはテスラからの案内により、自分が買った車を納車ポイントまで引き取りに行く。
テスラだけではない。アメリカのトヨタもオンライン販売へ舵を切った。トヨタは全米の販売店に提供したオンラインのプラットフォーム「Smart Path」を通して車を受注している。
インドではヒュンダイが「Click to Buy」というオンライン販売を開始した。
自動車会社ではないが、中国ではアリババが2010年から自社の通販サイトで新車を売っている。
新車ではまだ多数派になっていないが、中古車のオンライン販売はどこの国でも当たり前のビジネスになりつつある。
今回のコロナ禍ではこの傾向が強まった。人との接触を避けたいユーザーはオンライン販売に魅力を感じているから、今後もいくつかの会社が追随してくるだろう。
「危機は大きな変化」と捉えるのならば、自動車販売の大きな変化はすでに始まっており、コロナ禍ではそれが加速したのが実情だ。
野地秩嘉
ノンフィクション作家