2020年、新型コロナの感染拡大で世界の自動車産業も大きな打撃を受けた。しかし、トヨタ自動車の2021年3月期の連結決算は、売上高27兆円、純利益は2兆2452億円と急回復させた。なぜトヨタは危機に強いのか。この危機で命運を分けた最大の理由はトヨタの優れた危機対応力にあった。本連載は野地秩嘉著『トヨタの危機管理 どんな時代でも「黒字化」できる底力』(プレジデント社)より一部を抜粋し、再編集したものです。

2020年6月の調査「クルマの保有に関心を持てない」

コロナ禍の最中である2020年6月、コンサルティング会社のデロイトトーマツは次のようなテーマの調査をした。

 

「ポストコロナの移動に関する意向調査」。

 

調査項目は3つだ。

 

①ポストコロナのライフスタイルの変化について。

 

②2020年6月から1年後の想定移動様態(目的、頻度、手段、所要時間)はどうなると思うか。

 

③クルマに対する意識(クルマのイメージ、保有意向、利活用意向)は?

 

結果を要約すると、次のようなものになる。

 

まず、「回答者のうち4分の1の人たちはリモートワークによる1年後の通勤の減少を予測した」。

 

その際、「移動手段では電車に代わって、自転車と徒歩が増える。中核都市ではマイカー移動が増加すると予測」。

 

「移動ニーズでは安全、安心、3密の回避を求める声が大きく増加し、快適時間の正確さ価格を求める声は減少した」

「マイカー保有に関し、非保有者はマイカーの保有志向が減退し、ますますのクルマ離れになる。一方、現保有者は継続保有意向が高く、(消費者の)二極化が進んでいる」

「車の利活用サービスの将来意向で調査したカーシェアに対する期待は1年前よりも大きく減少している」

 

緊急事態宣言が解除されたのが5月の末だったから、6月の段階ではまだ先の見通しは立たず、経済は冷えていた。回答者もまた先行きの判断に確たる自信はなかった。

 

Go ToトラベルもGo To Eatも始まっていなかった。移動やクルマの保有にも関心を持てる状況ではなかったのである。すべてにおいて悲観的な答えが多くても、その時の状況では仕方のないことだった。

コロナ禍でも見通しを上回ったトヨタの第2四半期決算

この調査から5ヵ月後、11月初めにトヨタの2021年3月期の通期見通しが発表された。

 

なお、発表があった当時の日本の状況は次の通りだった。

 

コロナ陽性者は減っていない。冬場を前にやや増えつつある。

 

経済刺激策が出たこともあって都心の人通りは戻りつつある。しかし、新型コロナ感染前と比べると、「店にもよるけれど、やっと6割程度」(銀座の飲食店主人談)だ。ただ、感染者は微増しているけれど、全般的に見ると、日本の社会は落ち着いていた。

 

一方、ヨーロッパでは春の感染ピーク時を超えるほどの感染者が出て、ロックダウンが始まった。経済の本格的な再開には至っていない。

 

工場では、マスクやフェイスシールドの生産を自主的に行い、非稼働日には、全員でカイゼンに取り組み、生産性が大きく向上したという。(※写真はイメージです/PIXTA)
工場では、マスクやフェイスシールドの生産を自主的に行い、非稼働日には、全員でカイゼンに取り組み、生産性が大きく向上したという。(※写真はイメージです/PIXTA)

 

さて、トヨタの決算見通しである。これは販売を含むトヨタの危機管理を評価するものさしだ。

 

危機のさなかに発表した2020年5月の時点では全世界販売が800万台、営業利益は5000億円という見通しだった。しかし、危機管理をし、対処した結果は予想を上回るものとなった。

 

第2四半期(2020年4月-9月)の実績では販売台数401万台、営業利益5199億円。通期の見通しは販売台数860万台、営業利益は1兆3000億円である。

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トヨタの危機管理 どんな時代でも「黒字化」できる底力

トヨタの危機管理 どんな時代でも「黒字化」できる底力

野地 秩嘉

プレジデント社

コロナ禍でもトヨタが「最速復活」できた理由とは? 新型コロナの蔓延で自動車産業も大きな打撃を受けた―。 ほぼすべての自動車メーカーが巨額赤字となる中、トヨタは当然のように1588億円の黒字を達成。 しかも、2021…

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