ある日突然、老親が緊急搬送で入院という事態が起こります。介護は毎日のことなので、使命感だけでは長続きはしません。10年以上、仕事をしながら父母の遠距離介護を続けてきた在宅介護のエキスパートは、「介護する人が幸せでなければ、介護される人も幸せにはならない」と訴えます。入院や介護に備え、知っておきたい制度やお金の話から、役立つ情報、具体的なケア方法までを明らかにします。本連載は渋澤和世著『親が倒れたら、まず読む本 入院・介護・認知症…』(プレジデント社)から抜粋し、再編集したものです。

徒歩3分のコンビニが両親の主食だった

遠距離介護 父…要支援1 母…要介護1

 

実家は駅からは近かったが、スーパーマーケットが遠かった。徒歩3分以内のコンビニと精米店店頭で販売されている、おにぎりが両親の主食だった。父は歩行が徐々に困難になり杖を使用するようになった。杖では荷物が持てないからと、シルバーカーをプレゼントした。

 

家から徒歩20分くらいのスーパーに、よりによって強風の日にふたりでこのシルバーカーを使って買い物に出かけたという。父は筋肉がやせ細り体重もかなり減っていたので、強風にあおられ、母にもぶつかりふたりで転倒。顔にあざ、肘をすりむくなどの大ケガをした。父に判断能力があったため、タクシーを呼んで、かかりつけ病院に行くことができ、手当てを受けることができた。運良く、骨折はなかったが痛々しい外傷と包帯が今後を不安にさせた。

 

人から勧められると断ることができない父は、ある意味、業者のターゲットだった。一時期、自分から車を手放したのに、定期預金が満期になりその金額で購入できるからと軽自動車をまた購入していた。

 

最後まで感じが良かったのは新聞店で、ずっとお付き合いをさせてもらっていたという。(※写真はイメージです/PIXTA)
最後まで感じが良かったのは新聞店で、ずっとお付き合いをさせてもらっていたという。(※写真はイメージです/PIXTA)

 

しかし、そこは高齢者の運転。大通りに出るときに、右折のタイミングを失いバックした際、バックミラーの確認を怠ったのだ。自宅近くの狭い道で油断したのか、たまたま居合わせた後続車にぶつけてしまった。人ではなかったのが幸いでもある。この事故をきっかけに免許証は返上することになった。

 

運転免許を返納すると、「運転経歴証明書」を申請することができる。「運転経歴証明書」を提示することにより、高齢者運転免許自主返納サポート協議会の加盟店や美術館などで、様々な特典を受けることができるらしい。高齢者が、ブレーキとアクセルを間違えて児童や店舗に突っ込むニュースをよく目にするようになった。

 

これらは家族が、危ないから免許証を返上してほしい、運転は卒業するようにと説得した矢先のことも多いと聞く。地域によっては車がないと生活できないところもある。ボランティアや地域での支えが期待されるが、やはり高齢者の運転は難しい問題に変わりはない。

 

母の認知症は進行していたが本人は気づいていない。そのため母にとって父は、昔の元気な頃の父なのだ。父の体力が弱ってこようと、そんなことは思っても感じてもいないようだ。あるとき、母が父へ買い物を依頼した。父も自分の体力を自覚できておらず、ノコノコと出かけていった。

 

一度転倒すると自分では起き上がる体力がないのにだ。1度目は、近所の人に見つけられ支えられて自宅に戻った。2度目は倒れているところを見知らぬ車の親切な人に助けられ家まで送ってもらったという。この話は後日、父本人から聞いた。遠距離介護と在宅で生活させることに限界を感じた事件でもあった。

 

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親が倒れたら、まず読む本 入院・介護・認知症…

親が倒れたら、まず読む本 入院・介護・認知症…

渋澤 和世

プレジデント社

高齢化が進む日本では現在、介護ストレスによる介護疲れが大きな問題だ。そこで本書では、仕事や育児との両立を前提に、「完璧な介護」ではなく「頑張りすぎない介護」を提案する。 正社員としてフルタイムで働きながら、10年…

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