ある日突然、老親が緊急搬送で入院という事態が起こります。介護は毎日のことなので、使命感だけでは長続きはしません。10年以上、仕事をしながら父母の遠距離介護を続けてきた在宅介護のエキスパートは、「介護する人が幸せでなければ、介護される人も幸せにはならない」と訴えます。入院や介護に備え、知っておきたい制度やお金の話から、役立つ情報、具体的なケア方法までを明らかにします。本連載は渋澤和世著『親が倒れたら、まず読む本 入院・介護・認知症…』(プレジデント社)から抜粋し、再編集したものです。

骨折と入院で急激に認知症が進行し言葉が少なく

同居介護 母…要介護5

 

母は要介護5でも、圧迫骨折をするまで歩いていた。すり足なので多少の段差でも、つまずくことへの心配は尽きなかった。

 

そんなときに起こった事件だ。リビングで娘が勉強をしていたので、母を頼んで私は犬の散歩に出かけた。30分弱で戻るし母が外に出るなんて考えもしなかったので鍵を閉めなかった。家に着くと、口の中を切って血だらけになった母が寝かされていた。娘の話はこうだった。

 

「出ていく音がしなかったから全く気が付かなかったが、外を見たらおばあちゃんが走っていた」と。外に出たのは良いが混乱し走り回って転倒したようだ。転倒した場所が悪く砂利道だったため口にケガもした。本来なら、かかりつけ医に行きたいのだが、電話をしたところ技師不在でレントゲンがとれないという。

 

要介護5でも認知症の母親は、圧迫骨折をするまで歩いていたという。(※写真はイメージです/PIXTA)
要介護5でも認知症の母親は、圧迫骨折をするまで歩いていたという。(※写真はイメージです/PIXTA)

 

診療時間外でレントゲンと外科を診察してくれる病院を救急医療情報センターで確認し、すぐに向かった。とにかく転倒が続いた。小規模多機能でも椅子から立ち上がろうとして足をひっかけ転倒する。そのたびに病院に行ってレントゲンをとった。気が休まらない日々が続く。自分よりも自分以外の家族のことになると心配しすぎで、私にはとてつもなく大きなストレスとなった。

 

介護でのストレスの大半は病院がらみだった。母は両足とも大腿骨頸部骨折をしているため金具が入っている。ずれていないか、複雑骨折をしていないかをその都度確かめた。金具があると簡単には折れにくいのは確かだが、変な方向に曲がったら後がない、そんな心配が続いている。

 

朝、小規模多機能のお迎え時間が早くなり、私の出社前に来てもらえることになった。母は這いずりながら玄関まできていたので、今日もそうするだろうと気が緩んでいた。歯を磨きながら「おばあちゃん、もうすぐお迎え来るよ」と声をかけた。次の瞬間ドーンという音がした。駆けつけると母が押し入れの扉に頭を突っ込み倒れていた。

 

足元には車いすが倒れていた。どうやら私がかけた声に反応して、車いすにつかまって立とうとしたらしい。いつもはそんなことしないのに、ケガをするときとはそういうものだ。私は遠くから声をかけたことを後悔した。その日は施設にそのまま行き、翌日にかかりつけ医を受診した。何と脊椎圧迫骨折で即入院となってしまった。

 

手術はしないが安静ということで、その後コルセットを8か月間使用した。この骨折と入院で急激に認知症が進行し言葉が少なくなった。歩く気力もなくなった。このときに、もう歩くことは諦めても良いのではないか、無理に歩かせてまた転倒するより車いすの方が安全ではないか、と考えるようになった。

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親が倒れたら、まず読む本 入院・介護・認知症…

親が倒れたら、まず読む本 入院・介護・認知症…

渋澤 和世

プレジデント社

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