ある日突然、老親が緊急搬送で入院という事態が起こります。介護は毎日のことなので、使命感だけでは長続きはしません。10年以上、仕事をしながら父母の遠距離介護を続けてきた在宅介護のエキスパートは、「介護する人が幸せでなければ、介護される人も幸せにはならない」と訴えます。入院や介護に備え、知っておきたい制度やお金の話から、役立つ情報、具体的なケア方法までを明らかにします。本連載は渋澤和世著『親が倒れたら、まず読む本 入院・介護・認知症…』(プレジデント社)から抜粋し、再編集したものです。

要介護3認知症母を旅行に連れて行った

同居介護 母…要介護3

 

母が要介護3だった頃の悩みに弄便行為がある。これは、オムツ中の大便を手で触ること。触った手で他の衣類を触るし、時々、襖に便をこすり付けることもあった。舐めないことが不幸中の幸いだった。だが爪の中に入るのが不衛生なのでいつも短くしていた。

 

大便の介助でおしりを拭いているときに限り、わざわざ手で陰部を隠すように触りにくるのにも苛立った。手を胸にあてておいてと頼んでも当然、その通りにはしてくれない。介護者としては悩ましいが、人前で陰部をさらけ出し平然としている方が異常だ。隠しにくるのは当然なのだ。ただ軟便のときなどは本当につらかった。

 

この時期から、手洗いのほかに、丸石製薬のウェルピュア、健栄製薬の手ピカジェルなどゼリー状の殺菌剤を使用することにした。これらは病院や大型施設ホールなどに置いてあることが多い。病院に置いてある製品やメーカーは信頼できると思う。食事前後、帰宅時、感染症予防、うまく手が洗えないときなどにとても重宝する。

 

認知症の母親の介護では、事件を起こしてはいけないと考えていたという。(※写真はイメージです/PIXTA)
認知症の母親の介護では、事件を起こしてはいけないと考えていたという。(※写真はイメージです/PIXTA)

 

要介護3になった年の2012年5月。認知症の母を旅行に連れて行こうと思い立った。歩ける間に旅行をと思ったこと、家族とも少し距離をとりたい、自分も母を理由に海外旅行をしたかったからだ。外国船で税金やその他で10万くらいだった。徘徊しても所詮は船の中、そんな都合の良いことを考えていた。横浜を出発し、プサン、済州島、鹿児島のクルージングだ。船を選んだのは荷物が宅配便で送れること、乗船と下船が家から近いこと。

 

もちろん、船の中で過ごすことが多いがイベントが沢山ある。フォーマルディナーではドレスアップも楽しめる。観光は全てオプショナルツアーを申し込んだのは母の世話に労力を使いたかったからだ。船中はショッピングもできタイムセールでは母も自分の時計を選んでいた。980円くらいの安物だが選ぶというのは楽しい。

 

母とともに美容室も予約した。太平洋の水平線を見ながら親子でシャンプーカットとブロー。なんという贅沢な時間だろう。担当美容師が日本人なので母も安心していたようだ。鹿児島では指宿で砂風呂も経験した。要介護3で認知症でも自立歩行ができればシャワーも使えて清拭も問題はない。トイレも頻繁に誘導すれば大きな問題は起こらない。このときに行ってよかった。

 

認知症というのは都合の良い病気だ。私は父と兄を亡くしているが、母はあまりそのことを思い出さなくなった。特に兄を若くして亡くしたときの落胆はすさまじかった。そのつらい出来事を思い出さなくてすむのなら、その方が良いに決まっている。

 

この頃も、母の心の中にはいつも兄がいて、「まーちゃん」と声を出して呼んでいる。半面、ものすごく悪口に敏感だ。この頃、食欲旺盛な母は甘いデザートも大好きで体重は増加気味。「おばあちゃん、重いな、太っているよね」と家族で話していると「誰が太っているって」と怒っている。悪口で脳を活性化できるのかもしれないねと笑い話になった。

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