コロナ禍を機に、市場拡大を阻害していた要因に変化
しかし、新型コロナウイルス感染拡大を契機として、日本においてフレキシブルオフィスのマーケット拡大の障害となっていたこれらの要因に、以下のように変化が見られ始めている。
1.「オフィスの契約形態」の変化
CBREが毎年テナントに対して行っているアンケート調査によると、定期借家契約の割合は2016年は35%だったが、2020年には43%まで上昇した(Figure4)。
大手デベロッパーが保有する大型オフィスビルは定期借家契約を導入しているケースが多く、こうしたビルの供給が増加してきたことで定期借家契約の導入割合は徐々に高まりつつある。加えて、定期借家契約の契約期間は普通賃貸借契約よりも長いことが一般的だ。このように、テナントの賃貸借契約は徐々に硬直的な形態にシフトしてきたといえる。
一方で、コロナ禍による景気減速によって先行きが不透明な状況が続いていることに加え、新たな働き方を模索するテナントが増加している。業績や働き方に合わせて柔軟に拠点戦略を見直すために、イニシャルコストや退去コストが安いだけでなく、契約形態の柔軟性を求めるテナントがフレキシブルオフィスを選択肢に入れるケースは今後増えるだろう。
2.「少ない起業家」の変化
日本政府は、起業が経済社会に新陳代謝をもたらし、経済成長を支える原動力になるとの考えのもとに、様々な施策を打ち出している*3。
*3:例えば最近の施策としては、地方でのIT事業立ち上げへの補助金制度(2021年)。他に新しい技術の実証を迅速に行うための規制のサンドボックス制度(2018年)など。
これに加えて、2018年に厚生労働省が「副業・兼業の促進に関するガイドライン」を策定したことや、コロナ禍で業績へのダメージが大きい一部の企業で副業を認めるケースも見られ始め、副業・兼業の気運が高まっている。
副業・兼業がより普及すれば、収入に対する不安も軽減され、起業の増加にもつながると考えられる。初期コストを抑え、迅速に事業を開始でき、人員の増減にも柔軟に対応できるフレキシブルオフィスがこうした需要の受け皿として求められるだろう。
3.「低い空室率」の変化
日本でフレキシブルオフィスの拡大が進んだ2018年以降、東京23区の空室率は1%程度で推移してきた。しかし足元では、新型コロナウイルス感染拡大の影響により、業績悪化やリモートワーク導入に伴うオフィススペースの解約が増加している。
加えて、今後はオフィスビルの新規供給も過去平均を上回るペースとなる見込みだ。そのため、東京23区の空室率は今後上昇傾向で推移すると予想する(Figure5)。
サードパーティーのフレキシブルオフィスオペレーターにとっては、希望する場所やビルに今までよりも拠点を開設しやすくなるだろう。また、デベロッパーやその他のビルオーナーが自ら運営するフレキシブルオフィスも更に増えると考えられる。
以上のように、これまでフレキシブルオフィスの市場規模拡大の障害となっていた要因は変化し取り除かれつつある。加えて、コロナ禍で急速に浸透したリモートワークの場所として、自宅などのほかにフレキシブルオフィスも選ばれているようだ。
先に挙げたテナントに対するアンケート調査によると、フレキシブルオフィスをすでに利用している回答者の割合は21%から23%に増加している(Figure6)。
また「今後1年間でフレキシブルオフィスの利用を増やす・開始する」と答えた割合も21%となっており(Figure7)、新しい働き方の場所としてもフレキシブルオフィスの需要が増加することを示唆している。日本の賃貸オフィスマーケットにおけるフレキシブルオフィスの存在感は今後高まっていくだろう。
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