ライバルとの値下げ合戦は、片方が倒産するまで続く!?
しかし、この状態は続きません。客を奪われたライバルが値下げで客を奪い返しにくるからです。たとえばライバルが158円に値下げすると当方は客がゼロになってしまうので、対抗して157円に値下げして……といった値下げ合戦が繰り広げられることになるわけですね。
問題は、値下げ合戦が赤字になっても続くことです。ライバルが150円で売っているなら、当方は149円で売ったほうが損が少なくてすみます。なにもしなければ当方は客がゼロなので、固定費分50万円がそっくり赤字になりますが、149円で1万リットル売れば、49万円の粗利益から固定費を差し引いても赤字は1万円ですみますから…。
そうなると、ライバルは対抗して148円に値下げし、当方も「147円に値下げし…と、無限に続くことになります。「赤字になったとしても、操業を止めてしまうよりは、さらに値下げしてライバルから客を奪った方がマシだ」と双方が考えているため、値下げ合戦はどこまでも止まらないのです。
最終的には、お互いが仕入れ値プラス1円で売る(49万円の赤字となる)ところまで値下げが続き、そのままどちらかが倒産するまで我慢合戦が繰り広げられるということにもなりかねません。
問題をさらに複雑にしているのが、「ライバルに勝てば、そのあとは独占企業になれる」というバラ色の未来予想です。「負ければ死ぬが、生き残ればバラ色の世界が広がる」という状況ほど、人々を真剣な戦いへと駆り立てる動機はありませんから。
まあ、実際に仕入れ値プラス1円でガソリンが売られているという話は聞きませんので、なんらかの要因が働くのでしょうが、理屈上はそうした事ことも起こり得る、ということですね。
居酒屋の場合、ガソリンスタンドよりはマシかも…
新型コロナの影響で、居酒屋が苦境に立たされています。しかし、観光地のガソリンスタンドとくらべれば、まだマシな面はありそうです。
まず、店を一時的に閉めることが可能だ、という点です。店を借りる費用は固定費ですが、光熱費やアルバイトの費用等は、固定費でもあるような、変動費でもあるような中間的な性格なので、店を閉じれば削減することが可能でしょう。店を閉めれば家賃の引き下げ交渉が可能になるかもしれません。
業態転換が比較的容易なことも救いです。ガソリンスタンドは巨額の設備投資がなされていますし、他業態への転換もできませんから、そのままの業態でいくしかありませんが、居酒屋は店を改装して普通の飲食店にすることもできるでしょう。酒と肴をテイクアウト販売することも可能でしょう。
あとは、新型コロナが収束するまでの期間をどう読むか、ということでしょうね。新型コロナが来月にも収束すると思えば、踏ん張っていまのままの営業を続けるでしょうが、あと10年続くと思えば、諦めて店を畳むという選択や、業態転換するという選択が有力になってくるでしょうから。
どのような選択をしても、観光地のガソリンスタンドや都会の居酒屋が苦しいことは間違いないでしょう。新型コロナの早期収束を祈るとともに、それぞれの店がこの局面を乗り越えられることを祈りつつ、本稿を終えることにしましょう。
今回は以上です。なお、本稿は筆者の個人的見解であり、筆者の所属する組織等々の見解ではありません。また、このシリーズはわかりやすさを最優先として書いていますので、細かい所について厳密にいえば不正確だ、という場合もあり得ます。ご理解いただければ幸いです。
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塚崎 公義
経済評論家
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