コロナ禍の物価動向~日米で差異が生じる背景

本連載は、三井住友DSアセットマネジメント株式会社が提供する「市川レポート」を転載したものです。

 

●27日公表の展望レポートで黒田総裁任期中に2%の物価目標は達成困難との見方が示された。

●ここ1年、国内物価の伸びは米国に比べて低迷しているが、日本固有の要因によるところが大きい。

●国内物価は長期でも低迷、ただ、そもそも物価上昇の環境整備は、日銀より政府の役割が重要。

27日公表の展望レポートで黒田総裁任期中に2%の物価目標は達成困難との見方が示された

日銀は4月26日、27日に金融政策決定会合を開催し、市場の予想通り、現行の「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」の維持を決定しました。また、27日に公表された「経済・物価情勢の展望(展望レポート)」では、新たに2023年度の経済見通しが示され、生鮮食品を除く消費者物価指数(CPI)の上昇率は、政策委員の見通しの中央値で、前年度比+1.0%となりました。

 

黒田総裁の任期は、2023年4月8日までのため、今回の展望レポートで、任期中に2%の物価安定の目標は、達成が困難との見方が示された格好になりました。黒田総裁は、2013年3月20日に総裁就任後、量的・質的金融緩和や、マイナス金利付き量的・質的金融緩和、そして現行の長短金利操作付き量的・質的金融緩和を相次ぎ導入しましたが、いずれも持続的に物価を押し上げるには至りませんでした。

ここ1年、国内物価の伸びは米国に比べて低迷しているが、日本固有の要因によるところが大きい

日本の物価は、伸び悩む状況が続いていますが、以下、改めて日米の物価動向を確認してみます。日本の物価指数は、「生鮮食品およびエネルギーを除くCPI」、米国の物価指数は「食品およびエネルギーを除く個人消費支出(PCE)物価指数」とし、いずれも前年比の伸び率を用います。まず、ここ1年程度の動きを検証すると、日本の物価は低迷している一方、米国の物価低下は、比較的抑制されていることが分かります(図表1)。

 

(注)データは2020年1月から2021年2月。日本は生鮮食品およびエネルギーを除く消費者物価指 数(CPI)で消費税調整済みの指数、米国は食品およびエネルギーを除く個人消費支出 (PCE)物価指数。 (出所)総務省、Bloomberg L.P.のデータを基に三井住友DSアセットマネジメント作成
[図表1]日米物価動向(2020年1月以降) (注)データは2020年1月から2021年2月。日本は生鮮食品およびエネルギーを除く消費者物価指数(CPI)で消費税調整済みの指数、米国は食品およびエネルギーを除く個人消費支出(PCE)物価指数。
(出所)総務省、Bloomberg L.P.のデータを基に三井住友DSアセットマネジメント作成

 

この差は、主に日本固有の要因によるところが大きいと考えられます。具体的には、2020年4月から導入された「高等教育の修学支援制度」(高等教育無償化制度)が、教育費を押し下げ、2020年7月から開始された観光支援事業「Go To トラベル」が教養娯楽費(宿泊費)を押し下げたと推測されます。また、この4月からは、携帯電話料金の引き下げの影響も予想されます。

国内物価は長期でも低迷、ただ、そもそも物価上昇の環境整備は、日銀より政府の役割が重要

米国については、コロナ禍で控えていた消費需要の回復(ペントアップ需要)による財価格の上昇、政府支援による医療サービス費の上昇などが、物価を支えたと思われます。このように、コロナ禍の1年で日米の物価を比較した場合、特に日本の特殊要因が大きく影響することになるため、次に、長期的な動きを検証してみます。黒田総裁就任以降の推移をみると、やはり日本の物価は米国に比べ伸びが鈍いことが確認できます(図表2)。

 

(注)データは2013年4月から2021年2月。日本は生鮮食品およびエネルギーを除く消費者物価 指数(CPI)で消費税調整済みの指数、米国は食品およびエネルギーを除く個人消費支出 (PCE)物価指数。 (出所)総務省、Bloomberg L.P.のデータを基に三井住友DSアセットマネジメント作成
[図表2]日米物価動向(2013年4月以降) (注)データは2013年4月から2021年2月。日本は生鮮食品およびエネルギーを除く消費者物価指数(CPI)で消費税調整済みの指数、米国は食品およびエネルギーを除く個人消費支出(PCE)物価指数。
(出所)総務省、Bloomberg L.P.のデータを基に三井住友DSアセットマネジメント作成

 

日本の物価が伸び悩む原因については、学識者の間でもまだ議論が続いています。ただ、ごく簡単に考えれば、将来の生活に不安が少なく、賃金が伸びる環境であれば、消費は増え、物価が上昇する公算は大きいと思われます。では、そのような環境が何によって整えられるのか、ということになるのですが、それは少なくとも日銀の金融政策ではなく、政府の適切な政策によるものと考えます。

 

 

※当レポートの閲覧に当たっては【ご注意】をご参照ください(見当たらない場合は関連記事『コロナ禍の物価動向~日米で差異が生じる背景』を参照)。

 

(2021年4月28日)

 

市川 雅浩

三井住友DSアセットマネジメント株式会社

チーフマーケットストラテジスト

三井住友DSアセットマネジメント株式会社 チーフマーケットストラテジスト

旧東京銀行(現、三菱UFJ銀行)で為替トレーディング業務、市場調査業務に従事した後、米系銀行で個人投資家向けに株式・債券・為替などの市場動向とグローバル経済の調査・情報発信を担当。
現在は、日米欧や新興国などの経済および金融市場の分析に携わり情報発信を行う。
著書に「為替相場の分析手法」(東洋経済新報社、2012/09)など。
CFA協会認定証券アナリスト、国際公認投資アナリスト、日本証券アナリスト協会検定会員。

著者紹介

投資情報グループは、総勢14名のプロフェッショナルを擁し、経済や金融市場についての運用会社ならではの高度な分析を社内外に情報発信しています。幅広い投資家に良質な情報を伝えるべく、活動する機会や媒体は多岐にわたります。年間で約800本の市場レポートを作成し、会社のホームページで公開中(2019年度実績)。

著者紹介

連載【市川雅浩・チーフマーケットストラテジスト】マーケットレポート/三井住友DSアセットマネジメント

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