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「明日は休ませてくれ」デイサービス拒否
熱をだしてから1週間が経過しているということはきちんと覚えているらしい。きっと、カレンダーにじーじが書きこんでいる、へんちくりんなマークで日にちを把握しているようだ。
「じーじは、陰性だったんだよ」
と言っても聞こえていないらしい。
「今ですね、ソ連で作っているコロナウイルスに効果がある血清を手配しているんですよ」
「コロナに効く血清？」
「そうです。蛇から抽出するんですよ。私はその研究に昔携わっておりましたから、その関係でソ連から手に入れるルートがあるんですなあ」
と、気分はすっかり研究者だ。
そういえば、少し前に、ソ連だの、血清だのと言っていたことを思い出した。
「その血清が手に入ったら行きますので、安心してください」と、血清が手に入るまでデイには行かないようである。
おまけに、「なんだか、疲れました。やはり、あと１週間は静養が必要なようです」と言って、うなだれて自分の部屋に行ってしまった。
昨日、元気になったから「寿司が食いたい」だの「にごり酒が飲みたい」だのと言っていたのは、どこのどなたでしたっけね？と嫌味の一つも言いたいところだが、
ピカッとひらめいた。
そうだ！ お寿司とにごり酒を献上して、良い気分にさせてデイサービスに行く気になってもらおう！
急いでスーパーへ行き、お寿司を購入、なんと夕方なので100円引き。じーじのお気に入りのにごり酒は見つからなかったが、コップに入れてしまえば、ほかの銘柄でもわからないだろうと思い一合瓶を購入して帰宅。
「じーじ、夕飯だよ」と声をかけるも、食欲がないだの、気分が乗らないだのとご機嫌ナナメ。
「そっか～残念だなあ、せっかくお寿司とにごり酒買ってきたのに」と言うや否や、
「お！ 今日は何の日だ、ごちそうだな」と、ひとまず作戦成功。
あとは、どうやって明日、デイサービスに行くと言わせることができるかだ。
お寿司とにごり酒を目の前に、テンションが上がった頃を見計らい、
「お寿司が食べられるようになって良かったね。これで明日からデイサービスに行けるね」と言ってみた。
「いや～まだ本調子ではないから、明日は、休ませてくれ」と、どうやら地球人には戻っているらしいが、デイサービスには行きたくないらしい。
そこで、「1週間ぶりにお風呂に入れるよ、きっと気持ちいいよ」と言ってみたが、
「いや、明日は休む」
「〇×さんが、じーじの歌う“上海帰りのリル”聴きたいって言ってたよ」とか、いろいろ言ってみたが、
「いや、明日は休む」の一点張り。
明日デイサービスに行ってくれないと、私が困るのよ！！と言いたいところだが、そこはグッとこらえて、こんな理由じゃダメだろうとも思いつつ、
「あ！ そうだ、明日、じーじの誕生日会してくれるって言ってたよ」
……そしたらなんと
「お！ そ～かあ！ それは行かないといかんなあ」
だって……。
あまりにも簡単に「行く」と言うでびっくりしたが、これで、明日から私は仕事に専念できるのでめでたしめでたし。そして、じーじが誕生日会を楽しみにしていたなんて、始めて知ったのであった。
黒川 玲子
医療福祉接遇インストラクター
東京都福祉サービス評価推進機構評価者
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