「黒川さん、39度のお熱がありま……」。ショートステイのスタッフから突然の電話があった。まさか、コロナに感染した? 心配しながら車ですぐに迎えにいくとじーじが車いすでやってきた。そしてPCR検査に病院を訪れたところ……。じーじを在宅介護で面倒をみている黒川家を突然襲ったじーじのコロナ疑惑、黒川家はどうなったのか。連載「見つめてひらめく介護のかたち『楽しむ介護』実践日誌」の著者の黒川玲子さんに認知症の父を在宅で介護する取り組みを現場報告する連載特別編をお届けします。

コロナ疑惑94歳認知症父は「陰性」だったが

コロナ疑惑での自宅療養中は、夜中に「お~い、お~い……」と何度となく起こされトイレ介助、普段なら作らないじーじ用の昼ご飯を作り、洋服を着替えさせては仕事をする、そんな日々だった。

 

あれから1週間。94歳とは思えぬ回復力で熱が下がり、3日間の経過期間も無事終了し、じーじは、明日からデイサービスだ。日中だけでも、じーじのお世話から解放されると思ったっただけで、ニヤニヤしてしまう。あまりにうれしくて鼻歌を歌いながら夕飯を作っていると、

 

「なんだか、いいことでもあったのか?」とじーじ。

 

大好きなにごり酒でご満悦のじーじ。写真提供=黒川玲子
大好きなにごり酒でご満悦のじーじ。写真提供=黒川玲子

「じーじが元気になって良かったからね。明日からはデイサービスに行けるね」

 

と、この一言でわが家の空気は一変した。

 

「お、お、俺はデイには行かん」

「は? なんで? 熱も下がったし、A先生(医師)も行っていいですよって」

 

なんの返答もないので振りかえってみると、額に手をあて微動だにしないじーじ。まずい! いつものルーティンポーズ。まさしく、認知星と交信中ではないか! このままだと認知星人に変身してとんでもない攻撃を仕掛けてくるに違いない。どうにかして、交信を中断しなければと思ったが、時すでに遅し。やおら顔をあげたじーじは、

 

「あ~たねえ」

 

でた! 認知星人ダース・ベイダー版の標準語。「あなた」を「あ~た」と言っているということは、すでに変身済みだ。

 

「いいですか? わたくしはコロナなんですよ。コロナ患者がデイサービスに行っていいはずがありませんがねえ~」

 

などと、ものすごい理由をつけてデイに行くのを拒否しだしたのである。どうやら、PCR検査の結果が陰性だったことを忘れているらしい。

 

「コロナ患者は2週間の隔離が必要だと、政府もおっしゃっているではあ~りませんか。私はまだ1週間しかたっておりませんので」

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認知星人じーじ「楽しむ介護」実践日誌

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黒川 玲子

海竜社

わけのわからない行動や言葉を発する前に必ず、じーっと一点を見据えていることを発見! その姿は、どこか遠い星と交信しているように見えた。その日以来私は、認知症の周辺症状が現れた時のじーじを 「認知症のスイッチが入っ…

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