「黒川さん、39度のお熱がありま……」。ショートステイのスタッフから突然の電話があった。まさか、コロナに感染した? 心配しながら車ですぐに迎えにいくとじーじが車いすでやってきた。そしてPCR検査に病院を訪れたところ……。じーじを在宅介護で面倒をみている黒川家を突然襲ったじーじのコロナ疑惑、黒川家はどうなったのか。連載「見つめてひらめく介護のかたち『楽しむ介護』実践日誌」の著者の黒川玲子さんに認知症の父を在宅で介護する取り組みを現場報告する連載特別編をお届けします。

高熱でコロナ疑惑なのに明日の朝?夕方には結果?

ショートステイ利用中に39度の熱を出したじーじ。あわてて迎えに行き、発熱外来のあるクリニックへ受診。結果は、肺炎の疑いもなく、PCR検査の結果は「陰性」だったのだが、陰性だとわかるまでが大変だったのである。

 

受診したのは、じーじのかかりつけ医で、街中にある普通のクリニック。PCR検査をするには受診後に区の保健センターへ行かねばならないという。しかし運悪く、その日は土曜日。おまけに午後ということで保健センターはやっていないというではないか。

 

でもきっと、主治医がどこかの大学病院に紹介状を書いてくださりPCR検査をするのかと思っていたら、チャック付きのビニール袋を渡された。

 

色といい、大きさといいどう見ても検便の袋だ。

 

発熱でコロナ感染疑惑のじーじだったが、PCR検査は「陰性」だった。写真提供=黒川玲子
発熱でコロナ感染疑惑のじーじだったが、PCR検査は「陰性」だった。写真提供=黒川玲子

「明日の朝、唾液を採取して持ってきてください。夕方には結果がでます」

 

へ? 今じゃないの? 明日の朝なの??? 結果は夕方だと!

 

こんな一大事に、そんなのんきなことでいいのか!と言いたいところだが、ここで暴れたところでどうにもならないだろう。

 

「先生~~、唾液が採取できなかったらどうするんですか?」

「大変でしょうが、保健センターに行っていただくことになりますね」

 

高熱を出しているじーじをあちらこちらに連れまわすのはリスクが高すぎるし、だいたい、高熱でまともに歩けないじーじをどうやって車に乗せるんだ。

 

ということは、何がなんでも明日の朝、唾液を摂取しなければならないということだ。高齢者は若者と違い、唾液の量が少ない。94歳のじーじの唾液を採取することは至難の業だが、じーじを保健センターに連れて行くよりはまだましである。

 

翌朝じーじの唾液を摂取という一大任務を仰せつかった私は、少しでも飛沫感染から身を守るために、家中を探して簡易防護服を作ることにした。

 

手には、いつか使うかもしれないと思い、取っておいた毛染め用のプラスティック手袋をはめ。目に飛沫がかからないようにとサングラスを探したが見つからないので、老眼鏡で代用。頭には、旅館のアメニティグッズに入っていたシャワーキャップをかぶった。我ながら素晴らしいアイディアだ。ちょっと心もとないが、まあ、なにもしないよりましである。

 

いざじーじの部屋へ。

 

私のおかしないでたちを見て、不思議そうな顔をしているじーじに、

 

「ここに、ツバ吐いてくれる?」

「なに? お前にツバを吐くだと? 俺にはそんな失礼なことはできん」

 

……あ! 言い方間違った。

 

「ここに、唾液を入れてくれる?」

「急に言われても、出ん!」

 

そりゃそうだ。

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認知星人じーじ「楽しむ介護」実践日誌

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