売り手・買い手双方に大きなメリットをもたらしたM&Aの実例

前回は、高値売却に成功したM&Aの実例を説明しました。今回は、売り手・買い手双方に大きなメリットをもたらしたM&Aの実例を見ていきます。

売り手側の社長が抱いていた問題意識とは・・・

実例2◦周辺事業の拡大を目指す買受企業のニーズに合致

 

ナット製造 資本金3000万円 売上高30億円 従業員数60名

譲渡価格:5億円、役員退職金:社長に1億円

 

ナットを製造する鈴木ナット株式会社(仮名)は、創業から50年以上経過していて社長は二代目となる中小製造業です。

 

従業員は60名、年間の売上高は30億円という規模です。売上げの8割は大手自動車メーカー一社への直接納入によるものでしたが、長年取引が継続していて強固な信頼関係を築いています。そのため業績も好調で創業者から事業を引き継いだ鈴木社長はまだ50歳という若さでもあり、このまま事業を継続していく余地は十分に残されている状況でした。

 

しかし、鈴木社長が事業を継いでからというもの、経営に影響を与える事件が相次いでいることが気がかりでした。リーマンショックでは世界的な金融不安で市場が落ち込み、自動車メーカーが生産拠点を海外に大きくシフトしたことで取引が激減した時期があります。

 

東日本大震災でも被災地の工場が操業停止したことから、自動車生産が見送られるなど取引は減少、しばらくは不安定な時期が続きます。ようやく落ち着いてきたと思ったら、今度はタイの大洪水です。タイには鈴木ナットが取引する大手自動車メーカーの工場もあったため、少なからず影響を受けました。

 

直接的な被害はなかったことから何とか乗り越えられてきましたが、今後も何が自動車業界に影響を与えるかわからないし、ほぼ一社取引である状況に不安を覚え、鈴木社長はいつしか将来的にもっと経営基盤を強固にしなければと考えるようになりました。

 

将来のことを考える中では、事業承継に課題があることも浮き彫りになってきます。

 

鈴木社長には子どもが3人いて、現代の少子化の中では恵まれている方だと言えましたが、全員娘だったのです。長女、次女はすでに嫁ぎ、三女は鈴木ナットに入社させたもの、後継者というタイプではありませんでした。

 

単品商品からの脱却と後継者不在、この2つの課題に向き合うのに早すぎることはないと考え、情報を集め始めます。そして、ある経済雑誌のM&A特集を読んだ時にこの課題を同時に解決する方法としてM&Aが有効であると気付いたのです。

 

そしてそこから2〜3日もしないうちに、ご相談に来てもらうことになりました。

 

鈴木社長の将来を見据えた問題意識は的確でした。

同地域のM&Aであったことが奏功

50歳の経営者というとM&Aで会社を買うことは考えるかもしれませんが、売却を検討するという人はあまりいません。経営者が高齢化したり業績が明らかに落ち始めたりしてから相談に来る人もいるくらいなので、その決断力や覚悟は人並みではないと感じました。

 

社長がまだ若く、企業に勢いがあるため、鈴木ナットが売却を検討するタイミングとしてはベストに近いと言えました。価値を感じてくれる良い企業が出てくることは想像に難くありませんでした。

 

鈴木社長としても決して売れないとは思っていませんでしたが、ニッチな業界であることから良い買い手が現れにくいかもしれないという危惧を抱いていました。しかし、その不安は無用で案件化すると、すぐに幾つかの企業から買いたいと問い合わせがきます。

 

鈴木社長が重視していたのは、会社の将来を考え、単品商材から脱却できる相乗効果を持った相手です。また従業員に自動車好きが多かったことも踏まえて、なるべく異業界を避け自動車分野で違う工程を担当している相手を考えました。つまり斜め方向の相手です。それを基準に交渉する相手を絞りました。

 

そこで交渉が順調に進んだのが、ある金属加工をしている会社でした。

 

その会社のメインの事業は金属プレス加工で、高い技術力と高度な人材育成のノウハウがある優良企業でした。売上げは120億円、従業員は150名という規模です。

 

鈴木社長にとって魅力的だったのは、金属プレス以外にも金型製造、機械設計業等と幅広く事業展開している中で、自動車関係の仕事が多かったことです。相手側としては、さらなる成長のためにも自動車部品分野での取引拡大を模索していたところだったため、鈴木ナットが持っている大手自動車メーカーとの繋がりに注目していました。

 

同地域にあるということが唯一ネックかと思われましたが、扱っている部品が違うことから鈴木社長が気にするほど近い関係性でもなかったので、今回のM&Aでは問題にはなりませんでした。買い手としても違う商材を持つ者同士で、同地域での存在感を増していきたいというスタンスでした。

 

マッチングはうまくいき、譲渡価格は5億円が妥当ということで双方わだかまりもなく決まりました。

 

M&A後、鈴木社長はそのまま残り、旧鈴木ナットの経営をしながら、お互いの商材を利用してそれぞれの販路に新規受注するための計画を進めています。

 

また、同地域であったことで遠方への配送をまとめて行うなどして運送費の削減や効率化ができたために、業績にも良い影響が出始めています。

 

【図表 実例2まとめ】

ASAKビジネスコンサルティング株式会社 代表取締役

1966年 愛知県生まれ。横浜国立大学経営学部卒業後、株式会社デンソーに入社。人事部門、事業企画部門を担当。また、在職中に税理士資格の取得にもチャレンジし取得。
2002年会計事務所を開業。2006年コンサルティング部門であるASAKビジネスコンサルティング株式会社及び資産管理・不動産部門であるASAK財産コンサルティング株式会社を設立、代表取締役に就任。会計業務のみならず人事、事業企画、事業計画、戦略立案、事業F/S、原価計算・人事制度の構築、システム導入などあらゆる経営課題に対応し、法人から個人のお客様に至るまで、さまざまなニーズにきめ細かいサービスを提供している。十数年間にわたるメーカー勤務時代に築いたノウハウ・人脈をフル活用し、特に製造業のコンサルティングに強みを持つ。

著者紹介

連載中小製造業の強みを生かして圧倒的高値で売却する方法

本連載は、2016年4月27日刊行の書籍『中小製造業の社長が知っておきたい会社の売り方』から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

中小製造業の社長が知っておきたい会社の売り方

中小製造業の社長が知っておきたい会社の売り方

浅岡 和彦

幻冬舎メディアコンサルティング

自分が高齢になってもその技術や従業員を守っていきたい、自社の技術を信頼してくれる取引先に迷惑をかけたくない──これは中小製造業の社長に共通する願いでしょう。 しかし、社長の思いに反し、多くの会社がいま存続の危機…

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