どんなタイミングでも危険な「自社内での情報漏洩」
M&Aをうまく成功させるためには、情報漏洩にも最大限の注意を払う必要があります。
準備も万全、優秀なアドバイザーと組んで理想的な形でM&Aを進めているような場合でも、情報が漏れたことで一気に破綻まで追いやられるリスクがあるからです。
買い手側から情報が漏れるリスクはアドバイザーが買い手と秘密保持契約を結ぶことで回避するしかありませんが、問題は自社内での情報漏洩です。
M&Aは一世一代の決断になりますから、経営者とはいえ自分ひとりで決断していくことになるので、強いプレッシャーがかかります。そのため、最も頼りにしている部下に相談したくなったり、家族や息子につい漏らしたくなったりすることもあるかもしれません。
しかし、部下であれ身内であれ、M&Aについて話をするのは、ある程度M&Aの準備や交渉が進んでからにする必要があります。まだあまりM&Aが進んでいない段階で相談してしまうと、賛成できない場合に、考え直して欲しいと説得してきたり邪魔をしてきたりといったことが出てくるからです。
また、信頼できる相手ならまだしも、それ以外の従業員などに情報が漏れてしまうのはどんなタイミングであれ危険です。それぞれの従業員がどういう行動に出るか予測がつかないからです。
M&A成功の確率が一気に下がる「貴重な人材」の流出
静観する人もいるかもしれませんが、浮き足立つ人もいますし、ネガティブに捉えてしまう人もいます。そもそも漏れた情報を聞くという段階では、M&Aのはっきりとした理由やメリットなどがわかっていないため不安が強くなりがちで、それがモチベーションの低下を招きかねません。
社長に信頼をおいていた従業員の場合には、社長が変わるくらいなら今のうちに辞めようと考えるかもしれませんし、M&Aをしなければいけないくらい業績が悪いのだと早合点して退職する人も出てくるかもしれません。
貴重な人材が流出してしまうようなことになると、その後の業績にも関わってきますし、M&Aの条件も悪くなり、M&A成功の確率が一気に下がってしまいます。
また、役職を持つ人の耳に入った場合、M&Aによって自分たちの立場が不利になる、もしくはクビになってしまうと憂慮して潰しにかかる例もあります。創業者は彼らの待遇が悪くならないように交渉を進めていくわけですが、従業員には実際の内容はわかりませんし、契約も最終的にどう転ぶか誰にもわからないので、安易に賛同することはできないのです。
また、役職を持つ人が辞めてしまうと、M&Aをしても中身が伴わない、いわゆる空箱でのM&Aも懸念されます。
M&A交渉は1年、2年という長期スパンで行われることもありますので、その間秘密保持のために気を張るというのは心理的に大変な部分もあるかもしれませんが、それも含めてのM&Aだという意識を持つことが必要です。