前回は、中小製造業にとってM&Aでの売却チャンスが高まっているとされる現在の市場環境について説明しました。今回は、M&Aによる「売り手側のメリット」の具体的な内容について見ていきます。

M&Aによって企業を大きく発展させることも可能

M&Aは買い手側にばかりメリットがあるわけではありません。売り手側も多くのメリットを享受できる方法です。

 

M&Aとは英語で合併と買収のことを指す、いわゆる第三者承継のことです。事業を息子、親族、従業員などではなく第三者の企業に譲渡し、継続してもらうのです。

 

第三者ですから、後継者不足、それに伴う創業者の高齢化、グローバル競争などによって五里霧中に追い込まれていても問題ありませんし、生産能力を高めたりシナジー効果を発揮したりする企業に譲渡できれば、より発展させてもらえることも可能です。創業者、子ども、従業員、取引先、そして買い手側の企業、すべてにおいてメリットが見込めるのです。

従業員の雇用、価値のある技術を守ることができる

製造業の経営者が事業の行く末を考える時に、最も気がかりとなるのは従業員です。もし廃業を選んだとしたら、従業員は全員職を失います。20~30代の従業員なら転職活動はそれほど難しくないかもしれませんが、40~50代の従業員となるとこのご時世では厳しいはずです。これまでの技術を活かせる仕事につければいいのでしょうが、そう選んではいられなくなりますし、地方などの経済的に弱っているところではそもそも求人すら相当に限られていることでしょう。

 

もし新しい業界への再就職となれば、経験のないことを覚えたり全く違う仕事のやり方に順応したりするのに多大な時間と労力が必要となってしまいます。相応の役職についていた方の場合、転職によって給与がガクッと下がることも想定されますが、まだ子どもの学費や家のローンなどもある年代なので、家族を巻き込んで人生設計を改めなければならない事態に陥るリスクも出てきます。

 

従業員の再就職くらい何とかお世話できると思う経営者もいるかもしれませんが、5人以下くらいならともかく、20~30人を超えるようになってくると全員を納得させられるような職場を紹介することは現実的に難しいはずです。

 

また、従業員と同様に大事なのは長年磨き抜いた技術を伝承することです。技術を持った従業員が別の製造業会社で働くことになったとして、その技術を活かせるかどうか、引き継げるかどうかは別問題です。試行錯誤しながら懸命に築いてきた技術は、その中小製造業でこそ最大限に活きるはずです。

 

M&Aで事業譲渡を選べば、事業そのものを継続してもらえるので従業員の雇用はそのまま引き継がれますし、価値のある技術も活かしてもらうことができます。創業者が築いてきた財産とも言える人材と技術をそのままの状態で次に託すことができるのです。

本連載は、2016年4月27日刊行の書籍『中小製造業の社長が知っておきたい会社の売り方』から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

中小製造業の社長が知っておきたい会社の売り方

中小製造業の社長が知っておきたい会社の売り方

浅岡 和彦

幻冬舎メディアコンサルティング

自分が高齢になってもその技術や従業員を守っていきたい、自社の技術を信頼してくれる取引先に迷惑をかけたくない──これは中小製造業の社長に共通する願いでしょう。 しかし、社長の思いに反し、多くの会社がいま存続の危機…

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