相続が発生すると、亡くなった人の財産をどう分けるかが問題となります。そこで分割の基準となるのが「遺言書」です。遺言書がなければ相続遺産は相続人全員の共有になりかねません。遺言書は民法に定める方式に従わなければならず、そうでないものは無効になってしまいます。しかし、いまでは民法の改正による要件の緩和で、遺言書は比較的に作成しやすくなっています。

「遺言書を作成する人が増えている」のは本当か?

遺言としては主に「自筆証書遺言」と「公正証書遺言」があり、いずれも件数が年々増えています。

 

●「自筆証書遺言」と「公正証書遺言」が一般的

 

民法で定められた遺言の方式には次のような種類があります。一般的には「普通方式」のうちの「自筆証書遺言」と「公正証書遺言」の2つがよく利用されます。

 

[図表2]民法で定められた遺言の種類

 

自筆証書遺言」は、遺言者が遺言書の内容をすべて一人で書くものです。「公正証書遺言」と違って証人が不要で費用もかからず、手軽に作成できる点が特徴です。

 

ただ、「自筆証書遺言」は、遺言書が発見されないままになったり、一部の相続人が偽造、改ざんしたりする恐れがあります。

 

また、「自筆証書遺言」は基本的に、遺言者の死後、家庭裁判所の「検認」が必要とされます。「検認」とは、家庭裁判所に遺言状を持っていき、遺言書の偽造、変造を防止するために、遺言書の記載を確認する手続きのことです。

 

なお、自筆証書遺言の方式は、2019年(平成31年)1月13日から一部緩和され、2020 年(令和2年)7月10日からは法務局における保管制度も始まっています。

 

もう一つの「公正証書遺言」は、公証役場で公正証書の形で作成するものです。2人以上の証人の立ち会いが必要で、遺言者が述べる内容を公証人が法的な観点でチェックしながら文書にまとめ、さらに原本は公証役場で保管されます。

 

「公正証書遺言」は、公証役場の「遺言検索システム」を使って、遺言の存在を確認することができるようになっています。

 

●遺言書は年々、増える傾向に

 

以前は「遺言書を作るなんて縁起でもない」といった風潮が強かったようですが、相続を巡るさまざまな“落とし穴”やトラブルのことが知られるようになり、社会全体の雰囲気も変わってきているようです。

 

例えば、「公正証書遺言」は1995年(平成7年)に約4万6000件だったものが、2019年(令和元年)には約11万3000 件と増えています。

 

また、「自筆証書遺言」の作成件数そのものではありませんが、相続が発生した際に必要とされる家庭裁判所の検認については、1995年(平成7年)に約8,000件だったものが、2019年(令和元年)には約1万8,000 件になっています。

 

遺言書の作成は、自筆証書遺言の保管制度の創設などにより、今後さらに増加していくでしょう。

 

※ 公正証書遺言の作成件数は、日本公証人連合会の公表データに基づく。家庭裁判所の検認件数は、最高裁判所の司法統計に基づく
[図表3]「公正遺言書」の作成件数と「自筆証書遺言」の検認件数の推移 ※ 公正証書遺言の作成件数は、日本公証人連合会の公表データに基づく。
  家庭裁判所の検認件数は、最高裁判所の司法統計に基づく

 

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