相続の際、遺言書や遺産分割協議の問題に悩むケースは非常に多くあります。対処を誤ると親族間に修復不能な亀裂が入ることもあるため、慎重な対応が望まれます。トラブルを回避し、円満に手続きを進めるためのポイントを、相続専門の税理士が紹介します。

遺言には「どの財産を、誰に」と明記されているが…

有効な遺言があればその記載が優先しますが、相続人全員の合意があれば別の分け方も可能です。

 

●相続人全員の合意があれば別の分け方も可能

 

有効な遺言がある場合には原則として、遺言の内容に従って、どの相続財産を、誰が、どのような割合で引き継ぐかが決まります。

 

ただ、民法において、「遺言」でできることは、次の3つとされています。

 

遺産の分割の方法を定めること

遺産の分割の方法を定めることを第三者に委託すること

5年を超えない期間を定めて、遺産の分割を禁止すること

 

民法では上記のうち③を除いて、「遺産分割協議」によって遺産の分割ができる、ともしています。

 

「遺産分割協議」とは、相続人全員の話し合いによる合意です。つまり、①と②については、「遺言」より「遺産分割協議」のほうが優先することになります。

 

すなわち、相続人全員が遺言の存在を知り、その内容を正確に理解したうえで、遺言の内容と異なる遺産分割協議書を作成すれば、その内容に沿って相続財産を分けることができるのです。

 

逆にいうと、相続人のなかに一人でも同意しない人がいれば、「遺産分割協議」は成立しないので、遺言どおりに相続を行わなければならないということになります。

 

(※画像はイメージです/PIXTA)
(※画像はイメージです/PIXTA)

「相続人の話し合い」が重要なのはなぜ?

有効な遺言がない場合には、相続人全員の話し合いによる合意で相続財産を分ける必要があります。相続人どうしが揉めて良いことは何もありません。

 

●相続人どうしが揉めて良いことは何もない

 

遺言がない場合、遺産をどう分けるかは相続人が話し合って決めるのが基本です。これが「遺産分割協議」です。

 

「遺産分割協議」は、必ず相続人全員が同意しなければなりません。相続人が一人でも反対していれば成立しません。あるいは、相続が起こったときには分からなかった相続人の存在があとで判明したような場合、それ以前に行った「遺産分割協議」は無効となり、やり直す必要があります。「遺産分割協議」が成立しないということは、相続財産(遺産)の分割が行えないということです。その場合、相続財産は相続人全員の共有となり、さまざまな不都合が生じます。

 

第一に、相続税の申告にあたっては、遺産分割協議書の写しを資料として添付することが必要なため、便宜的に法定相続分で分けたことにしていったん申告を行い、「遺産分割協議」後に申告し直す必要があります。

 

第二に、遺産が分割されていないと、相続税の負担を大幅に軽減することができる「配偶者の税額軽減」や「小規模宅地等の特例」などの特例が受けられません。こうした特例は、一定の条件に当てはまる人が遺産を相続で取得したことを証明する必要があるからです。

 

第三に、相続税を支払うため、遺産に含まれる株式や不動産などを売却しようとしても、共有となった遺産を売却するには、相続人全員の合意が必要となり困難を極めます。

 

第四に、「遺産分割協議」がまとまらない場合は家庭裁判所に「調停」を申し立て、それでも合意できなければ、「審判」に移ります。しかし、時間がかかればかかるほど相続人どうしの関係は悪化し、裁判費用などもかかります。

 

こうしたことから、相続においては、相続人の話し合いが何よりも重要であり、「遺産分割協議」は、非常に重要な手続きとなります。

 

●未成年者が相続人の場合、法定代理人の選定が必要

 

もし、相続人に未成年者がいる場合は、法定代理人を選んで「遺産分割協議」を行わなければなりません。

 

通常、未成年者の法定代理人には親がなりますが、相続の場合は違います。

 

例えば、父親が亡くなり母親と未成年の子が相続人になる場合などは、利益相反を避けるため、親は未成年の子の法定相続人になることはできず、家庭裁判所において特別代理人を選任してもらう必要があります。特別代理人は親族が任命されることが多いです。

遺産分割協議書は、なぜ作ったほうがいいの?

「遺産分割協議」は文書がなくても成立しますが、さまざまな手続きに使うためや、言った言わないのトラブルを避けるため、作っておくべきです。

 

●各種手続きで「遺産分割協議書」の提出が必要に

 

「遺産分割協議」は、相続人が全員、同意すれば、特に文書にまとめるなどしなくても法的には成立します。

 

実際には「遺産分割協議書」として文書にまとめるのが一般的で、各種手続きの点からも作成することを強くお勧めします。代表例が、不動産の相続登記です。

 

なお、被相続人の預金口座からの引き出しについては、金融機関が指定する用紙に相続人全員が記入すれば、遺産分割協議書がなくても手続きができます。しかし、遺産分割協議書(写し)を金融機関に提示すれば簡単に手続きできます。

 

また、相続税の申告をするにあたり、例えば、「配偶者の税額軽減」や「小規模宅地等の特例」などを利用する場合は遺産分割協議書(写し)の提出が必要とされます。

 

そもそも、文書がないとあとから「言った、言わない」ということになりかねません。相続人どうしのトラブルを防ぐためにも、遺産分割協議書は必要です。

 

ただし、相続人が一人だけの場合、遺言書のとおりに遺産分割する場合、遺産が現金・預金だけの場合などは、遺産分割協議書がなくても問題はないとされています。

遺産の分け方には、どんな方法があるの?

「現物分割」「代償分割」「換価分割」「共有分割」の4つがあり、相続財産の種類によって向き、不向きがあります。

 

●財産内容や相続人の資力、トラブルリスクなどを考慮

 

遺産の分割は基本的に相続人の話し合いで自由に分け方を決めることができますが、その方法には次の4つがあります。

 

★現物分割

相続財産をそのまま分割する方法。現金をはじめ、広い土地を分筆したり、1棟のマンションにある複数の住戸を別々に登記するといったケースも考えられる。ただし、評価額や時価換算で争いにもなる。


★代償分割

そのままでは分割しにくいような相続財産について、一部の相続人がその相続財産を受け継ぐ代わり、他の相続人には金銭(代償金)を支給するという分け方。ただし、相続財産を引き継ぐ相続人に代償金を支払うだけの資力が必要で、不足分の借入が必要となることも。

★換価分割

相続財産を売却し、その代金を分ける方法。ある意味、合理的な分け方だが、相続財産に対する相続人の思いや気持ちが絡むと難しいことも。

 

★共有分割

相続財産の一部または全部を複数の相続人が共同で所有する方法。有効な遺言がなく相続が発生すると、相続財産はいったん、法定相続分に応じた持分割合で相続人の共有になる。そのまま共有にしておくケースのほか、遺産分割協議によって共有持分を変更することも考えられる。ただし、共有になった相続財産の処分(売却など)は共有者全員の合意が必要となる。相続が続くと共有者が増え、相続財産の取り扱いが難しくなる。

 

 

税理士法人チェスター

 

知らないと損、分かれば安心 相続税の申告80のギモン

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