Appleのスティーブ・ジョブズが、文字のアートであるカリグラフィーをプロダクトに活かしていたことは有名だ。マーク・ザッカーバーグがCEOをつとめるFacebook本社オフィスはウォールアートで埋め尽くされている。こうしたシリコンバレーのイノベーターたちがアートをたしなんでいたことから、アートとビジネスの関係性はますます注目されているが、実際、アートとビジネスは、深いところで響き合っているという。ビジネスマンは現代アートとどう向き合っていけばいいのかを明らかにする。本連載は練馬区美術館の館長・秋元雄史著『アート思考』(プレジデント社)の一部を抜粋し、編集したものです。

現代アートは二番煎じはダメ。一番乗りがすべて

アルティメットな場で生きる

 

ここで強調したいのは、先ほどお話したとおり「場所(マーケット)がなければ自分でつくれ」ということです。そのためには、今まで見たことのない新しいものであることが条件となり、作品の外観やデザインだけでなく、コンセプトやコンテクストの面において 革新性が求められるのです。

 

スポーツに例えると、既存の伝統的スポーツではなく、新しいルールによる新しいスポーツをつくり出すようなものです。そうであればこそ、これまでに見たこともないものを欲するでしょうが、アートも同じでまったく想像を絶するものがいいのです。

 

既存のスポーツの中でいいプレイヤーとして活動するというアーティストがいてもかまいませんが、現代アート界の人間は、どちらかといえば新スポーツをつくり出すような、これまでにないアートをつくり出すことが好きな人間たちです。なぜなら、まったく新しい場ができることで、これまでにないアートの場所が出現し、これまでよりもさらにアートの可能性が拡大するからです。

 

ビジネスの場であれば、すぐに顧客の動向を気にするところでしょうが、アート界は、ビジネス界に比べれば鷹揚な気がしなくもありません。しかしながら、どこかのタイミングでアートとして承認されて、マーケットを生み出す必要があります。こればかりはビジネスセンスのある皆さんのほうが、絶妙なタイミングをご存じなのでお聞きしたいところです。

 

ここまで、三つの異なる大きなアートの潮流を紹介しましたが、思い出してもらえるでしょうか。

 

一つ目は、「アート、デザインとサイエンスの融合」といえるようなアートの潮流。メディアアートの世界的なイベントとして知られる「アルスエレクトロニカ・フェスティバル」において、私たちが見ることができるようなものです。

 

二つ目は、欧米の美術史の発展型であり、「コンセプチュアルな現代アート」を中心に展開していくアートで、アートの世界では主流を形成していて、グローバルなアートの潮流です。歴史と社会の課題を重視するタイプ。ヴェネチア・ビエンナーレ国際展やドクメンタなどを主な場所とするものです。

 

三つ目は、「アート、デザインと職人技術、工芸の融合」とでもいえるような潮流。私が関わった現代アート化する工芸や準備中のスコットランド・クラフト・ビエンナーレのような新しい動向です。

 

これら三つの動きは、現在進行形で今日のアートの場を形成しています。三者三様で主体も違えば、考え方も異なります。互い同士を意識することはほとんどありませんが、俯瞰してみれば、それぞれの流れが次の時代のアートをいかに形成するかを巡って競い合っているのです。それはときに陣取り合戦のような様相を呈し、アート界を動かしています。現代アートがどちらに動いていくのかは、誰も予測できないのです。

 

ビジネスにおいても、どちらに動くのかどこに向かうのかなど予測もつかないでしょう。それでも自分で未来の方向性を読み切り選んだ道にかけていく気概と度胸は欲しいものです。かつてある政治家が「二番ではダメなのか?」という質問をして周りを呆れさせたことがありましたが、少なくとも現代アートの場合、二番煎じはダメです。

 

一番乗りがすべてで、そんなルールの場所などないと言われれば、それを自分でつくればいいという気概で進まないと気圧されてしまいます。現代アートに関わるということは、アルティメット(究極)な場で生きるということなのです。

 

 

秋元 雄史
東京藝術大学大学美術館長・教授

 

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