(※写真はイメージです/PIXTA)

Appleのスティーブ・ジョブズが、文字のアートであるカリグラフィーをプロダクトに活かしていたことは有名だ。マーク・ザッカーバーグがCEOをつとめるFacebook本社オフィスはウォールアートで埋め尽くされている。こうしたシリコンバレーのイノベーターたちがアートをたしなんでいたことから、アートとビジネスの関係性はますます注目されているが、実際、アートとビジネスは、深いところで響き合っているという。ビジネスマンは現代アートとどう向き合っていけばいいのかを明らかにする。本連載は練馬区美術館の館長・秋元雄史著『アート思考』(プレジデント社)の一部を抜粋し、編集したものです。

男性用小便器を上向きに置いただけ

思考の罠を脱出せよ

 

アート作品を鑑賞するということは、アーティストから発せられた「問い」を受け取ることです。アーティストの発した問いについて考え、作品と対話することが鑑賞の醍醐味です。

 

答えを自分なりに考える、自問自答していくことが現代アートを理解するプロセスなのです。

 

ビジネスでは「わからない」は悪いこととされますが、現代アートにとっては、「わからない」はむしろよいことなのです。私たちは「わからないもの」に接することで思考が促されるからです。

 

それでは現代アートの代表的な作家からそのことを学んでいきましょう。

 

現代アートにとって、「わからない」は思考が促されるからいいことだという。(※画像はイメージです/PIXTA)
現代アートにとって、「わからない」は思考が促されるからいいことだという。(※画像はイメージです/PIXTA)

 

現代アートの方向を決定づけた三人の巨匠、マルセル・デュシャン、ヨーゼフ・ボイス、アンディ・ウォーホルです。三人三様で、それぞれが特徴的です。現代アートを鑑賞する上ではスタンダードともいえるアーティストなので、今日のアートを大掴みするときに知っておくと便利です。

 

マルセル・デュシャン

 

マルセル・デュシャン(1887年~1968年 フランス)です。

 

現代アートをかじった人であれば、名前ぐらいは聞いたことがあるかもしれません。アートをコンセプトによってつくりだし、読むものにしてしまった人です。現代アートの創始者といっても過言ではありません。

 

その出発点になった作品が、デュシャンが《泉》と名付けた作品です。本連載でも度々触れました。残念ながら、オリジナルは消失してしまっています。1950年代になって、デュシャン監修のもと17点のレプリカがつくられ、その1点が京都国立近代美術館に所蔵されています。

 

《泉》は、セラミック製の男性用小便器を上向きに置いただけのものです。デュシャン自身がつくったわけでもない、市販の工業製品で、彼はサインを入れただけ(既製品を芸術作品に転用したものをレディ・メイドと命名しました)。そのサインも偽名でR・マットと記されています。マットとは、デュシャンが便器を買った店の名前だったといわれています。

 

実際に《泉》は、1917年にニューヨークで開かれたアンデパンダン展に出品しようとして、実行委員から「こんなものはアートではない」と展示を拒否されています。「1ドルを支払えば誰のどんな作品でも受け入れる」はずのアンデパンダン展であるにもかかわらず、です。

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アート思考

アート思考

秋元 雄史

プレジデント社

世界の美術界においては、現代アートこそがメインストリームとなっている。グローバルに活躍するビジネスエリートに欠かせない教養と考えられている。 現代アートが提起する問題や描く世界観が、ビジネスエリートに求められ…

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