Appleのスティーブ・ジョブズが、文字のアートであるカリグラフィーをプロダクトに活かしていたことは有名だ。マーク・ザッカーバーグがCEOをつとめるFacebook本社オフィスはウォールアートで埋め尽くされている。こうしたシリコンバレーのイノベーターたちがアートをたしなんでいたことから、アートとビジネスの関係性はますます注目されているが、実際、アートとビジネスは、深いところで響き合っているという。ビジネスマンは現代アートとどう向き合っていけばいいのかを明らかにする。本連載は練馬区美術館の館長・秋元雄史著『アート思考』(プレジデント社)の一部を抜粋し、編集したものです。

ヴェネチア・ビエンナーレを毎年訪れる理由

「フェイス・トゥ・フェイス」の重要性

 

直島時代に、私はイタリアのヴェネチア・ビエンナーレを毎回訪れました。ベネッセ賞という若手への賞の授与と直島の宣伝のためです。

 

なぜこんなプレビューのタイミングで賞の授与と直島の宣伝を行ったのか。それは直島のことを知ってもらい、話題にしてもらうためには、世界のアートを牽引するトップのアート関係者が集うこのタイミングが、最も効果が高いからです。いってみればこのタイミングで集まるのは、皆、内輪の業界人ですが、その影響力たるや凄まじいものがあります。

 

著名なアーティスト、美術館長、キュレーター、美術評論家、美術ジャーナリストといったアートセレブが世界中から集まり、会場を盛り上げるのです。この最もホットなこのタイミングで直島のことを知ってもらうのが、一番効果的な宣伝方法でしょう。

 

イタリアのヴェネチア・ビエンナーレには著名なアーティスト、美術館長、キュレーター、美術評論家、美術ジャーナリストといったアートセレブが世界中から集まり、会場を盛り上げるという。(※写真はイメージです/PIXTA)
イタリアのヴェネチア・ビエンナーレには著名なアーティスト、美術館長、美術評論家、美術ジャーナリストといったアートセレブが世界中から集まり、会場を盛り上げるという。(※写真はイメージです/PIXTA)

 

直島への来島者は、7割が海外の人、3割が日本人といわれています。それも海外から訪れる人々は、いわゆるセレブといわれるリッチな人々、大学教授や研究者などのアカデミシャンらです。なぜそれほど海外で知られているか、それも世間に影響力のある美術関係者や美術愛好家に知られているかといえば、私たちがヴェニスの場で毎回プロモーションを行ってきた結果もあるのです。

 

広いビエンナーレ会場を関係者は一日中歩き回り、体力だけでなく神経も使い果たすので、そのタイミングでみんなが集い気軽に交流できる場を探しています。それがあれば、申し分ないでしょう。そのためにベネッセが交流の場を主催し、話題づくりのために新人賞を出したのです。

 

審査員にはオノ・ヨーコ、元森美術館のデビット・エリオットやダニエル・ビーンバウム、ハンス・ウルリッヒ・オブリストなど、今ではトップキュレーターやディレクターが名を連ね、毎回入れ替わりで審査にあたりました。

 

受賞者も、蔡國強、オラファー・エリアソン、ジャネット・カーディフ&ジョージ・ビュレス・ミューラー、タシタ・ディーンなど、今では皆がトップアーティストです。中には作品一点の価値が今では何千万円か、それ以上もするアーティストたちもいます。

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アート思考

アート思考

秋元 雄史

プレジデント社

世界の美術界においては、現代アートこそがメインストリームとなっている。グローバルに活躍するビジネスエリートに欠かせない教養と考えられている。 現代アートが提起する問題や描く世界観が、ビジネスエリートに求められ…

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