対社会のアート活動の「原点」は、ヨーゼフ・ボイスにある (※写真はイメージです/PIXTA)

Appleのスティーブ・ジョブズが、文字のアートであるカリグラフィーをプロダクトに活かしていたことは有名だ。マーク・ザッカーバーグがCEOをつとめるFacebook本社オフィスはウォールアートで埋め尽くされている。こうしたシリコンバレーのイノベーターたちがアートをたしなんでいたことから、アートとビジネスの関係性はますます注目されているが、実際、アートとビジネスは、深いところで響き合っているという。ビジネスマンは現代アートとどう向き合っていけばいいのかを明らかにする。本連載は練馬区美術館の館長・秋元雄史著『アート思考』(プレジデント社)の一部を抜粋し、編集したものです。

「もの」ではなく、「こと」になったアート

現代アートの方向を決定づけた三人の巨匠、マルセル・デュシャン、ヨーゼフ・ボイス、アンディ・ウォーホルです。三人三様で、それぞれが特徴的です。現代アートを鑑賞する上ではスタンダードともいえるアーティストなので、今日のアートを大掴みするときに知っておくと便利です。

 

ヨーゼフ・ボイス

 

二人目の巨匠は、ヨーゼフ・ボイス(1921~86年 ドイツ)です。

 

ボイスはデュシャンとは対極にいるアーティストですが、ボイスもまたデュシャンと同様にアートを破壊した人です。絵画や彫刻という古い形式を壊しました。ボイスがそのために根拠にしたものは自らの身体と行動です。そして自らが起こした行動の結果である出来事を唯一のアートと考えた人です。アートはまさに「もの」ではなく、「こと」になったのです。

 

アートの成り立つ場所をものではなく行動へ、あるいは、頭脳でなく身体へ。「あらゆる伝統はおしまいなんだ。僕はまったく別の場所に行くつもりだ」とは、ボイスの言葉です。

 

ボイスにとって、行為自体がアートなわけですから、そこで使用したものは行為の痕跡という意味しかありません。そこには絵画を制作するときのような、「人に美しく見てほしい」といった美的な配慮や造形的な要素はありません。アートは、ボイスが立ち会い、そこで関わる人との間に起きる時間の中に現れ、そして、消えていきます。

 

アートは、その場に存在するのみで、終わってしまえば、消失してしまうのです。ですから、ボイスの残したものは、これまでのアート作品ではなく、ただの痕跡になります。その場に立ち会えなかった人たちは、その痕跡からボイスの行為の意味を想像するのです。

 

ボイスは、一連の行為によるアートを「アクション」と名付けました。代表的なものは、《私はアメリカが好き、アメリカも私が好き》というもので、第二次大戦後の新秩序が形成された時代に、圧倒的な国力で世界を制圧していた帝国主義的なアメリカをテーマにした政治的メッセージの強いパフォーマンスです。

 

アメリカの空港に到着したボイスはどこにも寄らず、目隠しされながらそのままギャラリーに到着すると一週間、そこで生活します。ボイスと一緒に時間を過ごしたのはアメリカの野生を象徴するコヨーテでした。相手は野生のコヨーテですから緊張した時間が過ぎていきます。ボイスの心を落ち着かせたのはボイスが特別な意味を持たせていた、度々作品に登場する毛布や杖でした。これらを身にまとってボイスはコヨーテとのやり取りをしていきます。

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    東京藝術大学大学美術館 館長、教授 練馬区立美術館 館長

    1955年東京生まれ。東京藝術大学美術学部絵画科卒業後、作家兼アートライターとして活動。

    1991年に福武書店(現ベネッセコーポレーション)に入社、国吉康雄美術館の主任研究員を兼務しながら、のちに「ベネッセアートサイト直島」として知られるアートプロジェクトの主担当となる。

    開館時の2004年より地中美術館館長/公益財団法人直島福武美術館財団常務理事に就任、ベネッセアートサイト直島・アーティスティックディレクターも兼務する。2006年に財団を退職。2007年、金沢21世紀美術館館長に就任。10年間務めたのち退職し、現職。

    著者紹介

    連載ビジネスエリートに欠かせない「現代アート」という教養

    アート思考

    アート思考

    秋元 雄史

    プレジデント社

    世界の美術界においては、現代アートこそがメインストリームとなっている。グローバルに活躍するビジネスエリートに欠かせない教養と考えられている。 現代アートが提起する問題や描く世界観が、ビジネスエリートに求められ…

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