Appleのスティーブ・ジョブズが、文字のアートであるカリグラフィーをプロダクトに活かしていたことは有名だ。マーク・ザッカーバーグがCEOをつとめるFacebook本社オフィスはウォールアートで埋め尽くされている。こうしたシリコンバレーのイノベーターたちがアートをたしなんでいたことから、アートとビジネスの関係性はますます注目されているが、実際、アートとビジネスは、深いところで響き合っているという。ビジネスマンは現代アートとどう向き合っていけばいいのかを明らかにする。本連載は練馬区美術館の館長・秋元雄史著『アート思考』(プレジデント社)の一部を抜粋し、編集したものです。

高級ブランドと現代アートが急接近してはじめている

ロエベのブランディング戦略

 

新しいものができた後には必ず踊り場が出現し、一度停滞する時期が訪れます。

 

エジンバラでクラフト・ビエンナーレ・スコットランドやバーゼル・トレゾアは、何らかの理由で延期になり、金沢にしても工芸施策は紆余曲折を経て今に至っています。

 

そんな中で、ロエベのクラフトプライズは3回目が日本で開催され、工芸の現代化を期待する関係者から熱い眼差しを浴びています。ロエベは、スペインに本拠地を置く高級ブランド企業で、ルイ・ヴィトンなどに代表されるLVMHグループに属します。

 

2000年以降、現代アートと高級ブランドビジネスは接近してきているという。(※写真はイメージです/PIXTA)
2000年以降、現代アートと高級ブランドビジネスは接近してきているという。(※写真はイメージです/PIXTA)

 

ロエベが、世界のコンテンポラリークラフトのプライズを設けたことで、新しい工芸の潮流を形成するのではないかと期待されているのです。伝統的な技術にデザインや表現の新しさを加えて、工芸の次なる展開を予感させる作品をロエベは積極的に評価しており、現代アートの美意識とは異なった工芸らしさを追求しています。

 

工芸の振興に貢献しようという目的で設けられた同賞ですが、その一方でロエベの企業ブランディングと新商品開発に工芸を活用して、他社との差別化を図っていこうという狙いもあります。

 

ファッションブランドのブランディングは、商品の売れ行きを左右するだけでなく、ブランドの生死を決める重要な問題です。彼らはかつて自社の製品を巨額の費用を使い広告を行ってきた時代を経て、今ではアートの付加価値を使って自社の商品のブランド力を高めています。これはロエベだけでなく、多くのファッションブランドがすでに先行して現代アートと組んでブランディングを行ってきて、実績を積んでいるのです。

 

ルイ・ヴィトン、プラダ、カルティエのような現代美術館を持つ企業もあります。現代版メディチ家としてスポンサーになることで、自社のブランディング力を高めているのです。

 

2000年以降、現代アートと高級ブランドビジネスは接近してきています。

 

ロエベは他のブランドと比較すると後発組であるために、これまでのブランディングとは異なった手法を採用しました。あえて職人的なテイストが残るコンテンポラリークラフトを自社のブランディングに使用し、エッジの効いた現代アートとは一線を引きました。工芸の好きな人たちは、現代アートファンよりも保守的で女性が多いという傾向もあります。ロエベは新たな顧客の開発に乗り出すために、他社と異なるブランディングに打って出たのです。

 

現代アートのように価値の高いものとしたいコンテンポラリークラフトと、他社のブランドと差別化を図りたいロエベの利害が一致して、これまでにない結びつきを生み出した例です。これらの動きは一種の賭けですが、うまく行けば先行的な動きだけに大きなアドバンテージを得ることができ、何よりもまったく新しいマーケットが出現する可能性を秘めているのです。

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アート思考

アート思考

秋元 雄史

プレジデント社

世界の美術界においては、現代アートこそがメインストリームとなっている。グローバルに活躍するビジネスエリートに欠かせない教養と考えられている。 現代アートが提起する問題や描く世界観が、ビジネスエリートに求められ…

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