生産再開よりも地域の「命」と「復興」を重視
地域、一般企業、協力会社などへの支援
トヨタの危機管理でもっとも大きな特徴とは他者への支援だろう。
阪神大震災で本格的な危機管理、対処が始まった頃、支援と言えば、それは被災した協力会社へ行って復旧に力を貸すことだった。そうしないと、部品ができてこないから車が作れないのだ。
ただし、現場に行ったとたん、ひとつのことに気づいた。
「協力会社だけを支援していたらダメだ。地域の人たちも一緒に支援しなければならない」
以後、トヨタは協力会社だけではなく、地域の人々、広く社会の人々への支援も行うようになった。
朝倉は「トヨタの支援には原則があります」と言う。
「人命第一、地域復興、それから生産再開です。もっとわかりやすく言えば、『人の道(ひとのみち)』ですか」
「人の道」と答えられると、かえって、わかりにくくなったのだが、そういう気持ちは置いておいて、先を続けてもらった。
「被災した地区へ行って、うちの協力会社だけが復旧して生産を始めたりしたら、『なんだ、トヨタは自分たちさえよければいいのか』となってしまう。そうはいかんでしょう。困った時はお互い様ですし、人の道を守らんといかん。
危機の時こそ、トヨタらしい振る舞いをしなきゃいかん。おてんと様は見てます。だから、協力会社だけでなく、まずは地域の人たちの命を助ける。次に地域を復興させる。それから生産再開のために協力会社を助ける。この順番を守らないといけません。
阪神大震災の時に、僕も現場へ行ったのですが、ああ、これはうちの関係者だけを助けてはいけないな、と。だって、水も飲んでいないという人がたくさんいたわけですから。ペットボトルの水、それからウエットティッシュと生理用品を買い込んで、もう一度、被災した地区へ行って配りました。危機管理、対処の知恵もやっぱり現場へ行かないとわからんのです」